最初はただの静かな夜だった。

 

特別なことが起きる気配もなく、

ただゆっくりと時間だけが流れていたはずなのに、

いつからだろう、空気の温度が少しだけ変わった。

 

理性はまだ働いている。

それでも胸の奥にある何かが、じわじわとほどけていく。

 

視線を落とす。

落としたはずなのに、すぐに戻ってしまう。

 

こんなはずじゃなかった。

落ち着いているつもりだったのに、

気づけば意識がそこに集中している。

 

体の奥に小さな火が灯る。

それは急激に燃え上がるものじゃない。

 

むしろゆっくり、

確実に、

逃げ場を塞ぐように広がっていく。

 

心の奥で何かが崩れる。

きれいに整えていた理性の輪郭が、少しずつ曖昧になる。

 

その感覚が怖いのか、

それとも嬉しいのか。

 

もう区別はつかない。

 

ただ確かなのは、

この甘い狂い方を、

完全には拒めないということ。