視線を合わせた瞬間、ほんの少しだけ空気が揺れた気がした。

何かが起きたわけじゃないのに、落ち着いていたはずの感覚がゆっくりと輪郭を失っていく。こういう変化は、いつも静かに始まる。

 

わざと何も言わない。

余計な一言を足すより、この距離をそのまま保っている方が、ずっと正直な反応が見えるから。

 

近づこうとしているわけでも、離れようとしているわけでもない。ただ、同じ場所にとどまっているだけなのに、意識だけが少しずつこちらへ引き寄せられていくのがわかる。

 

表情はまだ整っている。

平気な顔も崩れていない。

それなのに、視線の奥だけが落ち着かなくなっているのが、隠しきれていない。

 

無理に誘う必要はない。

焦らせるつもりもない。

ただ、この温度を保ったまま見つめているだけで、十分伝わるものがある。

 

静かな夜ほど、人は正直になる。

そして正直になった瞬間の表情ほど、目を離せないものはない。