14時からご予約をいただいていたので、
少し早めにお部屋を出て、
お店へと向かった。

2階から1階へ続く階段を降りていると、
どこからともなく
風がスーッと入り込んできて、
私の腕をつかんだ。

どうやら風さん、
ずっと私が出てくるのを待っていたみたい。
私の顔を見つけて嬉しくなり、
迎えに来てくれたらしい。
私も風さんと一緒になれて嬉しい。
今日も一日、一緒に歩こうね。

階段を降りてすぐ、二本の街路樹を見上げた。
謎の木2、クロガネモチ。
そして、その隣には謎の木1。
なかなか本当の名前に辿り着けず、
間違った名前をつけられたまま、
ずっとここに佇んでいた木。

昨日、ようやく「ハナノキ」という
本当の名前を取り戻した。
そう思って見上げると、
葉を揺らしながら、
なんだか嬉しそうに見える。
「ありがとう」
そんな声まで聞こえてきそうだった。

落ち葉を拾い、
木を見上げ、
何枚も写真を撮り、
判定アプリと一緒にあれこれ悩んだ時間。
ほんの昨日、一昨日のことなのに、
もうずいぶん昔の出来事のように感じる。

それだけ毎日、
いろいろなことが起きているのだろう。
いや、違うのかもしれない。
私が、いろいろなものに
心を動かされすぎているのだ。

見たもの。
感じたもの。
触れたもの。
食べたもの。
香りを感じたもの。
ほんの小さなことにも心が揺れ、
ときめき、
響いてしまう。

だから毎日、心の中へ風景をいっぱい、
いっぱい、拾い集めている。
そう思うと、何でもない日常の中には、
素晴らしいものが驚くほど
たくさん転がっているのかもしれない。

ねえ、風さん。
あなたも私より、
ずっと広い世界を見ているのでしょうね。
だって、あなたは空を飛べるんだから。

歩を進めるたび、
次の街路樹が目の前に現れる。
どの木も風さんに撫でられながら、
ゆらゆら、さらさらと葉を揺らしている。
きっと気持ちいいのね。

今日は時間にも少し余裕がある。
だから歩く速度も、
いつもよりゆっくり。
いつも通っている道なのに、
急がずに眺めながら歩くだけで、
見えるものが少し違ってくる。

いろんなお店があって、
いろんな人がいて、
まだ知らないものが、
あちらにもこちらにもある。
楽しいな。
ワクワクするな。
ねえ、風さん。
そう思わない?
「うん、そう思うよ」
そんな声が聞こえたような気がした。

今日もまた、心が躍った風景をひとつ、
そしてまたひとつ、
私の中へ刻んでいく。
そうやって歩きながら、
前を向きながら、
私は少しずつ、少しずつ、
輝きを増していけたらいい。

……でも。ちょっと寝不足だから、
空いた時間には
少し眠った方がいいかもしれないな。