5時のアラームで目が覚めた。
部屋を出たのは5時17分。
外へ出ると、
ひんやりとした空気が身体を包んだ。
思いきり腕を伸ばし、
いつものようにウォーミングアップ。
そして、大きく深呼吸をする。
見上げた私の小さな空には、
まだ夜の名残りがあった。
空一面に広がっていたのは、群青。
昨夜、眠る前に「あと30分だけ」と
開いた鬼の若様の世界。
その余韻が、
そのまま朝の空に残っているように魅えた。
そういえば昨夜、
たまたまつけていたテレビから、
「ああ、やっと見つけた。俺の花嫁」
そんな声が聞こえてきた。
驚いて画面を見ると、
『鬼の花嫁』のアニメ版のCMだった。
私だけを愛してくれる若様。
「ああ、お前だけを愛そう。俺の花嫁」
コミックでは幾度となく見返した、
大好きな場面。
なのに。
あれ?
なんだか違う。
漆黒の髪。
赤い瞳。
この世のものとは思えないほど
妖しく美しい若様。
私の中では、
もう声まで含めてひとつの世界が
出来上がっていたのだろう。
だから、たったひと声聞いただけなのに、
かなりがっかりしてしまった。
――これは、アニメは見ないほうが
いいかもしれない。
朝一番から、
そんなことを考えている自分がおかしくて、
少し笑った。
きっと今朝の群青は、
そんな昨夜の余韻まで
抱いた色だったのだろう。
歩き始める。
雨上がりのモチおじさん。
まだ濡れた葉が街灯の光を受け、
深い緑に輝いていた。
そこには、はっきりと生命の息吹があった。
ところが、その隣のなぞちゃんは、
今日はどこか儚げだった。
よく見ると、葉のところどころが枯れ、
朽ちはじめている。
昨日より一枚。
また一枚。
少しずつ増えていく、色を失った葉。
同じ場所に立ち、同じ雨を受け、
同じ風に吹かれている二本の木なのに、
魅せている姿はまるで違う。
生き抜いていくもの。
衰えていくもの。
自然の中には、
人間の都合ではどうすることもできない
厳しい理がある。
それでも私は、
心の中でなぞちゃんに声をかけていた。
もうちょっと頑張れ。
そんな二人をあとにして歩いていく。
雨の名残りをまとった葉。
街灯の光。
夜を終えようとしている空。
これから眠りにつく人。
これから一日を始める人。
空、光、雨、緑、風。
そこへ街の灯りや車や建物が重なる。
自然のものと、人がつくったもの。
昨日と今日。
夜と朝。
私はその境目を歩いていた。
最近、この時間がとても好きだ。
どちらでもないから好きなのではない。
どちらも感じられるから好きなのだ。
夜の静けさをまだ抱きながら、
朝の気配も確かに感じる。
自然の息吹を感じながら、
街が目覚めていく音も聞く。
その両方を行ったり来たりできる。
それが、
私にとっての「淡い」なのだと思った。
そんなことを考えていると、
突然、鼻をくすぐる匂いがした。
あ。ラーメン。
スープのいい匂い。
匂いの方へ目を向けると、
ちょうどラーメン屋さんの前だった。
店の中には何人かの人がいる。
ラーメンを食べている人。
出来上がるのを待っている人。
これから眠る前の朝ごはんなのかもしれない。
あるいは、
これから始まる一日の朝ごはん
なのかもしれない。
同じ一杯のラーメンを前にしていても、
その人たちの時間はまったく違う。
一軒の小さなラーメン屋の中にさえ、
昨日と今日の淡いがある。
そう思った瞬間、なんだか楽しくなった。
淡いというものは、
目で見る景色の中だけにあるのではない。
音にもある。
光にもある。
そして、匂いにもある。
だったら今の私は、
どんな香りをまとって歩いているのだろう。
昨夜の若様の群青の香り。
雨上がりの葉の香り。
朝の風の爽やかな香り。
それらがまだ少しずつ私の中に残っている。
私は昨日を全部置いてきたわけではない。
昨日の名残りを抱きながら、
新しい朝へ向かっている。
それでいいのだと思った。
淡いとは、中途半端な場所ではない。
昨日と今日。
夜と朝。
光と影。
自然と人工。
その両方に触れながら、
ゆっくり次の世界へ移っていく時間。
だからこそ、そこに立つと、
いつもよりたくさんのものが
魅えるのかもしれない。
気づけば、私の小さな空が
少しずつ広がり始めていた。
群青だった空にも、白が混ざり始めている。
夜が消えたのではない。
朝が夜を追い払ったのでもない。
ふたつの時間が静かに重なり、
やがて次の色へ移ろっていく。
私はその淡いを、今日も歩いていた。
そして、もうすぐ海が見える。
その向こうには、
もっと大きな空が待っている。
さて。今日の私は、
そこから何を拾うのだろう。
夜明けには
昨日と今日が
手を重ね
淡いを歩く
風ひとつ連れ
— Morimura
淡いに立つ朝✨
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