この一文字を、静かに魅つめていた。
青ではなく、蒼。
同じ「あお」と読む文字なのに、
私の心に映る色は、少し違う。
青は、
何ものにも染まっていない、
透き通るような純粋さ。
まだ知らない世界へ、
まっすぐに手を伸ばす、
若き日の心の色。
けれど、蒼は違う。
そこには、
いくつもの季節を越えてきた、
深い時間の色がある。
喜びを知った。
悲しみも知った。
人の優しさに救われたこともあれば、
言葉にならない苦さを
胸の奥にしまった日もあった。
思いどおりにならない世の中も、
人の心の複雑さも、
少しずつ知っていった。
そして、
知らなくてもよかったことまで、
知ってしまったのかもしれない。
そんな私が、
今、もう一度求めているもの。
それは、透明であること。
何も知らなかった頃の青に、
戻りたいわけではない。
知ったことを忘れたいわけでもない。
ただ、
幾重にもまとってきたものの中から、
本当に大切なものだけを残して、
余分なものをそっと手放していきたい。
ふと、日本酒を思い出した。
磨きを抑え、
米の持つ複雑な味わいを残した一杯。
そこに、
世の中の酸いも甘いも、
すべて溶け込んでいるように感じたことがある。
一方で、
極限まで磨き抜かれた一杯には、
驚くほど澄んだ世界が広がっていた。
けれど、
磨くということは、
ただ削り取ることではないのだろう。
何を残すのか。
何を大切にするのか。
それを選び抜くことなのだと思う。
人生も、きっと同じ。
遠回りをした。
寄り道もした。
立ち止まったことも、
転んだこともあった。
けれど、
その一つひとつが、
今の私を形づくっている。
だから、
過ぎ去った時間を否定したくはない。
そのすべてを抱きながら、
なお、心はまっすぐでありたい。
道は曲がれど、心は直ぐに。
私は、
自分の心が美しいと感じるものに、
これからも素直でいたい。
美しい空には、
美しいと声を上げたい。
嬉しいときには、
少女のように笑いたい。
誰かの優しさには、
飾らない言葉でありがとうを伝えたい。
そして、
間違ったと思えば、
素直に立ち止まれる私でいたい。
自由であること。
純粋であること。
それは、
何も知らずに生きることではない。
いろいろなことを知ったうえで、
なお、自分の心に正直でいること。
そんな生き方を、
私は選びたい。
今朝、
群青から透明な青へと移ろう空を見上げた。
あの空もまた、
長い夜を越えて、
朝の光をまとっていた。
夜の深さを失ったのではない。
その深さを抱いたまま、
澄みきった朝へと姿を変えたのだ。
ああ、そうか。
私が求めている蒼とは、
こんな色なのかもしれない。
青は、無垢なる透明。
蒼は、磨かれた透明。
若き日の青も愛おしい。
けれど私は、
今の自分がまとっている蒼を、
もっと好きになっていきたい。
酸いも甘いも知り尽くし、
それでもなお、
心の奥に純粋な光を灯している。
そんな女性でありたい。
そして、
これからも自分自身を磨き続けたい。
誰かに認められるためだけではなく、
私が私を、
もっと美しいと思えるように。
蒼。
それは、
過ぎ去った青春の色ではない。
人生を重ねた今だからこそ、
私の心に宿る、
新しい青春の色。
私は今日も、
その蒼を胸に抱き、
まっすぐに歩いていく。
一筆の短歌|蒼の心
幾年の
酸いも甘いも
胸に秘め
なお澄みわたる
蒼きわが道
— Morimura
一筆入魂|蒼――酸いも甘いも越えて、なお澄みわたる蒼。
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