長い一日が終わろうとしている。
今日を振り返ろうとしたとき、
最初に浮かんだのは、出来事ではなかった。
色だった。
不思議なものだと思う。
何をした、
どこへ行った、
何を話した。
そんなふうに一日を順番に並べようと思えば、
きっといくらでも言葉にはできる。
でも今夜の私の心に残っているものは、
そんな輪郭のはっきりしたものではない。
こがね色。
淡い黄色。
赤。
そして、オレンジ。
午後から長い時間を
一緒に過ごしたあなたとの時間には、
いつの間にか、
いくつもの色がついていた。
ビールを見れば、こがね色。
グラスの向こうで揺れるその色は、
ただの飲み物の色ではなくて、
今日の時間を少しだけ
陽気にしてくれた色だったような気がする。
あなたが飲んでいたレモンチューハイは、
白に近い、淡い黄色。
目立つ色ではないのに、
思い出してみればちゃんとそこにいる。
少し控えめで、でも爽やかで。
なんだか今日のあなたの気配にも似ている。
そして、私の大好きなエビチリ。
あの赤は、
今日の中ではいちばん元気な色だった。
見ただけで嬉しくなる赤。
食べればもっと嬉しくなる赤。
こういうところは、
我ながら実に単純である。
好きなものは好き。
美味しいものは、美味しい。
そんな小さな幸せを
ちゃんと喜べる自分でいられることも、
案外悪くない。
けれど、
今日いちばん心に残った色は
何だろうと考えたら――
やっぱり、オレンジなのだと思う。
あなたの優しさの色。
何か大きな言葉をもらったからではない。
何か特別なことをしてもらったからでもない。
飲んで。
食べて。
喋って。
また笑って。
そんな何でもない時間の隙間に、
ふっと見えたもの。
私が気づかないくらい
自然に差し出されていた優しさ。
だからこそ、
それは眩しい黄色でも、
燃えるような赤でもなくて、
オレンジなのだと思う。
あたたかくて。
少しやわらかくて。
触れたあとに、
じんわり残る色。
今日は、
ひとりのあなたと長く一緒にいた。
たくさんの人と逢った一日ではない。
いくつものドアを開けた一日でもない。
けれど、だからこそ魅了えたものがあった。
時間というものは、
人の数で満ちるのではないのだと思う。
ひとつの時間を、
どれだけゆっくり味わえたか。
その人の言葉の向こうに何を感じたか。
笑ったあとに、心に何が残ったか。
そんなものが、一日を満たしていく。
今日はなんだか、
午後からずっと
あなたがそばにいてくれたような気がする。
実際に一緒にいた時間だけではなく、
別れたあとまで、
その余韻が続いていたからなのかもしれない。
外に出ると、
街にはもう夜の帳が下りていた。
昼間には見えていたものが闇の中へ溶け、
代わりに灯りが浮かび始める。
雨に濡れた街は、
その灯りをいくつも映していた。
こがね色も。
黄色も。
赤も。
オレンジも。
昼間に私の心へ落ちた色たちが、
今度は夜の街の中で、
もう一度揺れているように見えた。
今日一日の物語は
最終章に入ろうとしている。
そして帰りながら、
私は少し可笑しくなった。
こんなにたくさんの色を抱えて
一日を終えようとしているのに、
私が最後に向かいたい色は、
やっぱり群青なのだから。
あと残った時間。
日記をささっと片づけたら――
今度は私の時間。
群青の扉を開こう。
昼間にもらった色を捨てるのではない。
こがね色も、淡い黄色も、赤も、オレンジも。
全部、心のポケットへ入れたまま。
その上から、静かに群青を重ねていく。
一日は、ひとつの色では終わらない。
誰かと過ごした時間の色。
自分だけの時間へ還っていく色。
そのどちらも、今日の私。
そう思ったら、今日という一日が、
なんだかとても愛おしくなった。
さあ。
今日の最後は、群青へ。
若様の青い炎の向こうへ。
今夜くらいは、時間を忘れてもいいだろう。
だって私はもう、
今日一日分の色を、
こんなにもたくさんもらったのだから。
「色を重ねて、群青へ」
こがね色
グラスに揺れて
淡き黄は
あなたのそばに
静かに灯る
赤き皿
心を弾ませ
橙は
言葉にならぬ
やさしさの色
ひとりなる
あなたと重ねし
長き時
笑ひ語らひ
飲み交はしつつ
気づけばもう
夜の帳は
街を包み
雨の灯りを
水面に映す
今日の日の
色をひとつも
置き去らず
心のポケット
そっと満たして
この先は
わたしの夜へ
還りゆく
こがねも赤も
橙も抱き
最後には
群青の扉
押し開けて
青き炎の
向こうへゆかむ
反歌
こがね赤
橙抱いて
夜をゆく
最後に重ねる
わが群青を
— Morimura
色を重ねて、群青へ✨
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