昨夜、群青の世界に
予定よりほんの少し長く居続けた。

扉を閉じたのは2時10分。
5時にアラームをかけていたのに、
目が覚めたのは3時57分だった。
もう一度眠ろうとは思わなかった。

なぜだろう。

新しい朝の風景に、
まだ誰も触れていないような空気に、
一刻も早く逢いたかった。

とはいえ、
さすがにすぐ外へ出るには少し早い。
テレビをつけると、
4時から『暴れん坊将軍』が始まった。
将軍さまを横目に、
のんびりウォーキングの支度。

そして4時27分。
外へ出た。

ひんやり。頬に触れた空気が気持ちいい。
いつもよりずっと早い街は、
まだ眠りの中にいた。

人の声も、車の音も少ない。

しん、とした空気の向こうから、
虫の声が聞こえてきた。
何の虫だろう。
いつもの朝には気づかなかった声。

たった40分、50分ほど早いだけなのに、
街はまだ朝ではなく、
夜の側にいるらしい。

私の空を見上げた。

群青。

昨夜まで私を包んでいた群青が、
まだそこに残っている。

けれど、その下の方から少しずつ
白が滲み始めていた。

ああ。

今日のための余白が、
空の中に準備されている。
そんなふうに魅えた。

白は一気に広がらない。
ほんの少しずつ。
静かに。
群青の奥から、
今日の私が使うための白い余白を
取り出すように。

それを魅ているだけで、心がわくわくした。
あまりにわくわくしていたものだから、
モチおじさんとなぞちゃんへの
挨拶まで忘れてしまった。

……あ。ごめん。

そして、いつもの相棒を探す。

風さーん。
風さーん。
ところが返事がない。

今日は私が早すぎたのだろうか。
風さんもまだ布団の中?

そんなことを考えながら歩いていると、
空にまた変化が現れた。

白い煙のような雲が、
群青の中へゆっくりと入り込んでくる。

白。
群青。
その奥に残る漆黒。

いくつもの色が、
まるで私の心の層のように重なっていた。 

そのとき思った。
こんなふうに心の中が動くとき、
私はずっとそれを「感動」と呼んでいた。

でも、本当にそうなのだろうか。

今日は少し違って魅えた。

これは特別な出来事ではなく、
もっと当たり前の、
もっと根っこのところにあるものな
のではないか。

眠っている間にも。
目覚めたあとにも。
歩いているときにも。
立ち止まっているときにも。
心はずっと動いている。

大きく動く日もあれば、
小さく揺れる日もある。
勢いよく駆け出すこともあれば、
ほとんど動いていないように
魅えることもある。

でも、止まってはいない。

そう思った瞬間、

あ。
呼吸だ。
と思った。

大きく深呼吸すれば、
たくさんの空気が入ってくる。
静かにしていれば、穏やかに息をする。
走れば、呼吸は速くなる。
眠っていても、私が意識しなくても、
呼吸は続いている。

心も、きっと同じなのだ。

何かに触れ、
何かを感じ、
何かを手放し、
また何かを受け取る。

吸って。
吐いて。
吸って。
吐いて。

心もまた、生きている限り呼吸を続けている。

昨日の私は、それを感動と呼んだ。
今朝の私は、
もう少し違う言葉で受け止めたい。

生きていることの日々の営み。
私の心が、
今日もちゃんと生きている証。

群青の空の下、
まだ朝になりきらない静寂の中で、
私は自分の心が呼吸する音を、
ほんの少しだけ聞いたような気がした。

群青の
奥より白の
息生まれ
心もひそかに
朝を呼吸す

— Morimura