12時からご予約をいただいていたから、
今日は少し早めに出勤した。
今日の居場所を整え、

「森村、のれんを出します」の日記をアップ。
ふと時計を見ると、まだ11時33分。

少しだけ時間がある。

そう思って、ごろんと横になった。
……それがいけなかった。
いつの間にか眠っていたらしい。

ホテルの部屋番号を知らせる、
お店からのメールの着信音。
その音で目が覚めた。

あらら。

やっちゃった。

少し遠いホテルだから、
早めに向かっておこうと思っていたのに。 「10分くらい遅れちゃうかしら」

そんなことを思いながら、
日ノ出町の方へ足早に向かった。

空は曇り。
今にも雨が落ちてきそうだった。
風はあるけれど、
今日はそれほど寒くない。

久しぶりに向かうホテル。
そういえば、
あそこへ行くと帰りにケンタッキーが
気になるのよね。

とはいえ、私が買うのは
ビスケットかチキンナゲットくらい
なのだけれど。
もしかしたら、
ケンタッキーにも月見バーガーが
あるのかしら。

帰りにはドラッグストアも
ちょっと覗いてみよう。
期間限定だった柿の種のコンソメ味。
まだ残っていたりしないかな。

そんな小さな寄り道まで
頭に浮かべながら歩いているうちに、
今日、最初のドアが開いた。

迎えてくださったあなたは、
優しい笑顔がとても印象的な方だった。

気取らず、穏やかで、
どこか大人の余裕をまとっている。
「はじめまして」そうご挨拶すると、
あなたはにっこり笑って、
「よろしくね」
その一言で、少しだけ肩の力が抜けた。

自己紹介をしたり、
いろんな話をしたり。
これから始まる二人の時間の、
ほんの短いプロローグ。

言葉を交わすほど、
あなたの空気が少しずつ伝わってくる。
私は、その優しさや温かさに応えるように、
ゆっくり、やわらかく
あなたとの距離を縮めていった。

ふと目が合う。
表情が緩む。
そんな小さな反応が、とても嬉しかった。

そしてあなたが、
「森村さん、お願いがあるんだけど」と、
ちょっと興味深いリクエスト。
聞いてみれば、なんだか楽しそう。
それなら――やってみましょう。

気分は少し、女優。
役に入り込むようにチャレンジしてみたら、
あなたがとても喜んでくださった。
その表情を魅ていると、
私まで楽しくなってしまった。

そして時間が終わり、ホテルを出る。
外には、ぽつぽつと雨。
最寄り駅まで、二人でひとつの傘に入った。

腕を組んで歩く。
傘の中だけが、
少し小さな世界になったようだった。

近い距離。
伝わる温度。
そのぬくもりに、胸の奥がそっと揺れる。

ほんの短い相合い傘。
それでも、二人で歩いたその時間には、
部屋の中とはまた違う親しさがあった。

「また待っていますね」
そう言って、お別れした。
あなたの姿が遠ざかったあとも、
さっきまで隣にあった温度だけが、
しばらく胸に残っていた。

今、

今日のあなたとの時間を色にするなら――
テラコッタ。
燃えるような赤ではなく、
陽だまりを抱いた土のような、温かな色。

派手ではない。
けれど、そっと触れると、
ちゃんと熱を持っている。

あなたの穏やかな笑顔も、
包み込むような空気も、
今日の私の心には、
そんなテラコッタの
ぬくもりとして残っている。

雨あがり
朱のぬくもりを
胸に抱き
やさしき余熱
なお心染む

— Morimura