今、私の目の前には、
白い朝が広がっている。

けれど、
ただの白ではない。

ほんのりとピンクゴールドを含み、
その奥には、
淡い桃色の炎が、
ゆらゆらと揺れているようだった。

ああ、なんて美しい朝なのだろう。

思えば、
今朝はずいぶん遠くまで旅をした。

足で歩いた距離ではない。
心が歩いた距離。
時には少女のように胸をときめかせ、
時には遠い記憶に立ち止まり、
時には人生の曲がり角を振り返りながら、
私はいくつもの自分に出逢っていた。

そのどれもが、
今の私を形づくっている。

不思議ね。

人は年齢を重ねるほど、
心が落ち着いていくものだと思っていた。

けれど、
今の私は、
以前にも増して心がよく動く。

美しいものに胸を震わせ、
誰かの言葉に微笑み、
思いがけない出逢いに心を弾ませる。

そして、
誰かに甘えたいと思う自分さえ、
今は素直に愛おしい。

それは、
若い日の私にはなかった、
ひとつの自由なのかもしれない。

凛としていたい私。
誰かに寄り添いたい私。
少女のように無邪気でいたい私。
そして、
ひとり静かに、
自分の人生と向き合いたい私。

どの私も、
何ひとつ偽りではない。

心の色は移ろっても、
私という光は変わらない。

そんなことを思いながら、
もう一度、白い空を見上げた。

あの群青の世界は、
もうどこにも見えない。

星も、
有明の月も、
朝の光の向こうへ姿を隠してしまった。

けれど、
消えてしまったわけではないのだろう。

目には映らなくても、
その光は、
どこかで静かに輝き続けている。

そして、
私の心の中にも。

ねえ、あなた。

今朝、
私はいくつもの願いを星に託した。

誰かと笑い合えること。
遠く離れた大切な人が、
今日も穏やかに過ごしていること。
そして、
私自身がこれからも、
自分の人生を愛しながら歩いていけること。

その願いを、
有明の月が静かに見守ってくれていた。

願いが叶うかどうかは、
まだ誰にもわからない。

けれど、
願いを持つことそのものが、
私の明日を照らしてくれる。
私は、そう思っている。

人生は、
いつも思いどおりに進むわけではない。

曲がり角もあれば、
思いがけない坂道もある。

それでも、
自分の心が向かう先を信じて、
一歩ずつ歩いていきたい。

遠回りをしたっていい。
立ち止まったっていい。
大切なのは、
再び歩き出すとき、
自分の心に嘘をつかないこと。

そして、
どんな朝を迎えても、
胸の奥にある小さな灯を、
大切に守り続けること。

その灯は、
誰かのためだけにともるものではない。
私が私らしく生きるための光。

時には恋するように揺れ、
時には静かな祈りとなり、
時には明日への希望となる。

激しく燃え上がる炎ではない。

けれど、
消えることのない、
温かな桃色の灯。

凛として、艶やかに。
自由で、純粋に。
そして、
いつまでも乙女の心を忘れずに。

私は、
この小さな灯を胸に抱きながら、
これからも自分の人生を歩いていきたい。

ふと、朝の風が頬を撫でた。

風さん。

今朝も、
ずっとそばにいてくれたのね。

私はそっと微笑んだ。

目の前には、
限りなく透明に近いブルー。

その青は、
夜の群青が少しずつほどけ、
新しい朝へと生まれ変わった色のようだった。

そして、
その澄みきった光の中に、
私の桃色の炎が静かに揺れていた。

ああ、そうか。
夜が終わったのではない。
夜の美しさを、
そのまま朝へ連れてきたのね。

私は、
今朝のすべてを胸にしまった。

星に願いを。
月に祈りを。
そして、
今日という日に、
新しいときめきを。

森村劇場、終幕。

けれど、
私の人生の舞台は、
今日もまだ続いている。

私は背筋を伸ばし、
白い朝へと微笑みかけた。

さあ、今日も。

私らしく、
美しく、
まっすぐに。

心には、常しえの桃灯り。


群青の
星の願ひを
胸に抱き
白き朝にも
桃の灯消えず

— Morimura