ビスカウト王国|街に微笑みを灯す女王 QUEEN〜三つの塔に宿る物語・第二章〜
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三つの塔に命が宿るとき、
港町は、ひとつの王国になる。
昨日、私たちが拝謁したのはKING。
深紅のマントをまとい、王笏を手に、
静かに街を見守る、威厳ある王だった。
けれど、その王の眼差しが、
ふと優しくほどける瞬間があった。
視線の先にいたのは、QUEEN。
今日は、その女王様に逢いに行こう。
私とモリリン、ヒカリン、チャッピーは、
いつもより少しおしゃれをして王宮へ向かった。
「女王様にお逢いするんだから、
背筋を伸ばさなくちゃ」
そう言ったモリリンは、
何度もドレスの裾を整えている。
ヒカリンも、いつになくおすまし顔。
丸眼鏡のチャッピーまで、
蝶ネクタイを気にしていた。
「ぽんぽこ、ぽん。
王様のときより緊張しますな」
ふふっ。
そんなことを言っているチャッピーが、
いちばんそわそわしているみたい。
やがて、王宮の扉が開いた。
そこに現れたQUEENは、
まるで港の光を
そのまままとったような人だった。
気品ある宝石。
優雅に揺れるドレスの裾。
そして、やわらかく微笑む瞳。
王冠のきらめきは眩しいのに、
その微笑みは不思議なほど近しく、あたたかい。私は思わず息をのんだ。
美しさとは、
人を遠ざけるためにあるものではないのね。
誰かの心をそっと迎え入れるためにも、
美しさはあるのだ。
「ようこそ、ビスカウト王国へ」
QUEENの声は、
朝の風のようにやわらかかった。
私たちが深くお辞儀をすると、
女王様は静かに微笑んだ。
「どうぞ、顔を上げて。
今日は一緒にお茶を楽しみましょう」
そのひとことで、
張り詰めていた空気がふわりとほどけた。
案内されたテーブルには、
香り高いコーヒーと、ビスカウト。
レモン、ピーナッツ、チョコレート。
それぞれの味わいが、
宝石のように並んでいた。
「わあ……!」
思わず声を漏らしたヒカリンの目が、
早くもチョコレートに釘づけになっている。
モリリンが小さく肘でつつくと、
女王様はくすりと笑った。
「好きなものを選ぶ時間も、
幸せのひとつでしょう?」
なんて素敵な言葉。
ひと口いただけば、
さくりと軽い歯ざわり。
そして、ほろりとほどける甘さ。
ほんの少しの時間なのに、
心の奥まで温かなものが満ちていく。
今朝、群青の星空を見上げたあと、
コーヒーとビスカウトを味わった、
あの小さな女王様気分を思い出した。
幸せは、
豪華な食卓の上だけにあるのではない。
お気に入りのお菓子を一枚。
ゆっくりと味わう時間があること。
その豊かさを、
QUEENは誰よりもよく知っているのだろう。
ふと、窓の向こうにKINGの姿が見えた。
遠くからでもわかる、揺るぎない威厳。
けれどQUEENがそちらへ眼差しを向けると、
王の表情が
ほんの少しやわらいだように思えた。
「KINGはいつも、
街の明日を案じていらっしゃるの」
女王様は、誇らしそうに言った。
「だから私は、今日ここにある喜びを、
見失わずにいたいのです」
その言葉には、
王への深い信頼と愛情が感じられた。
強さとは、
すべてを自分の力で守ることではない。
ときには誰かの優しさに心を預け、
また誰かの心を包み込むこと。
KINGの威厳の奥にある優しさも、
QUEENの微笑みの奥にある強さも、
きっと同じ愛情から生まれているのだろう。
昨日の王と、今日の女王。
守る強さと、包み込む優しさ。
どちらが欠けても、
この王国にはならない。
KINGが街の揺るぎない柱であるなら、
QUEENは、その街を巡るやさしい風。
KINGが人々の明日を見据えるなら、
QUEENは、今日という一瞬に光を灯す。
ふたりは異なる輝きを持ちながら、
同じ王国を、同じ想いで愛しているのだ。
「ねえ、森村さん」
帰り際、
モリリンがそっと耳打ちした。
「昨日のKINGも素敵だったけれど、
今日のQUEENも忘れられないね」
うん。
本当に。
ヒカリンは満足そうに頷き、
チャッピーは丸眼鏡を直して、
神妙な顔でひと言。
「王国の幸せは、どうやら無尽蔵ですな」
あら、チャッピー。
今日はなかなか良いことを言うじゃない。
王宮をあとにすると、
横浜の風が頬を優しく撫でた。
見上げれば、あの三つの塔。
街の風景として眺めていたものが、
今はそれぞれの心を持つ存在に魅える。
KINGとQUEEN。
そして、
まだ私たちの知らない物語を秘めたJACK。
一枚のビスカウトから生まれた王国は、
今日も少しずつ、
その世界を広げていく。
王の強さに心を打たれ、
女王の微笑みに心をほどかれた私たち。
次の扉の向こうには、
いったいどんな出逢いが待っているのだろう。
ふと振り返ると、
QUEENの塔が港町の空に美しくそびえていた。凛とした佇まい。
けれど、その姿には、
どこか人を惹きつける優雅さがあった。
ああ、そうなのね。
気高さとは、心の豊かさ。
優雅さとは、時を慈しむこと。
そして美しさとは、
自分の持つ光で誰かの心を照らすこと。
QUEENは、そのすべてを
静かな微笑みの中に秘めていた。
口の中には、
まだビスカウトの甘やかな余韻が残っている。
その甘さとともに、
今日の女王様との出逢いも、
私の心の宝物になった。
ビスカウト王国。
KINGが守り、
QUEENが優しく包み込むこの王国に、
次はどんな物語が生まれるのだろう。
三つの塔に宿る物語。
その扉は、
まだ開いたばかりなのだから。
— Morimura