あわい草子|早起きの眠り姫〜星を待つ群青の窓辺〜
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午前1時10分。
ふと目が覚めた。
昨夜は23時半頃に眠ったから、
まだ2時間足らず。
もう一度眠ろうか。
いや、せっかく目が覚めたのだから、
昨日からの仕事を片づけてしまおう。
そう思ってパソコンを立ち上げた。
作成を依頼されていた見積書。
そして、今後の対応についての問い合わせ。
静まり返った真夜中の部屋で、
ひとつひとつ確認しながら作業を進めていく。
ふと窓を開けて、夜空を見上げた。
空一面に広がる白い雲。
いつもなら、あの辺りにシリウスがいる。
プロキオンがいる。
そして、ベテルギウス。
冬の大三角。
オリオンの帯と剣。
ところが、今朝は誰の姿も見えない。
少し残念に思いながら、
再びパソコンに向かった。
やがて、時計は午前3時を過ぎた。
見積書完成!
メール送信!
問い合わせへの返信も完了!
ふうっ。
これで、ひとまず私の仕事は一段落。
けれど、この続きがちょっと面白い。
朝9時。
出社してきた担当者たちが、
それぞれメールを開く。
届いた見積書を眺めながら、
あれこれ打ち合わせを始めるのだろう。
そして、きっと……。
「もう少しお安くなりませんか?」
「もう少し早くできませんか?」
ふふっ。お値段と納期のおねだりである。
直接電話でお願いしてくる人もいれば、
メールの文面に、
さりげなく希望を忍ばせてくる人もいる。
「もう少しご検討いただければ……」なんて。
なかなか奥ゆかしいおねだりではないか。
そんな光景を想像すると、
思わず笑ってしまう。
もっとも、対応が必要となれば、
こちらも真剣である。
今日は14時から出勤する。
それまでに連絡があれば、
できるだけ対応しておきたい。
14時以降の連絡については、
夕方に対応できればそれでよし。
急を要さないものなら、
週明けでもよいだろう。
そう考えるだけで、少し気持ちが軽くなった。
それにしても、同じ問題への対応でも、
それぞれの動き方はずいぶん違う。
すぐに対策を始めるところ。
しばらく様子を見ているところ。
まだ自分たちには関係がないと
思っているところ。
セキュリティへの意識の違いなのだろうか。
あるいは、
それぞれの事情があるのかもしれない。
同じ出来事に直面しても、
人によって受け止め方も行動も違う。
そんなことを考えるのも、
なかなか興味深い。
さて。
仕事を終えて、もう一度ベランダへ。
雲は少しずつ流れ、
ところどころに群青の空が覗いている。
けれど、星は見えない。
あそこに、いつも星があったのに。
なぜか、そんな思いが胸をよぎる。
昨日、一昨日には、
確かにあの場所で輝いていた星たち。
その姿を思い浮かべると、
雲の切れ間の群青に、
見えない星座が描かれていくような気がした。
そこにあるのに、見えない。
もう少し、ずーっと待っていたら。
雲が流れる、その一瞬。
星がちらりと
顔を覗かせてくれるかもしれない。
そう思うと、なかなか窓辺を離れられない。
いつの間にか、夜空の星たちは、
私にとって馴染み深い存在になっていたのだ。
そして、ふと思い出した。
午前1時10分に目を覚まし、
パソコンに向かう自分の姿。
これって、昔の受験勉強と同じではないか。
あの頃から、私は夜遅くまで頑張るより、
潔く眠って早朝に起きる方が好きだった。
眠い目をこすりながら机に向かうより、
一度眠って頭をすっきりさせた方が、
ずっと能率がいい。
そんなことを、
経験から学んできたように思う。
今も、その習慣は変わらない。
早朝の静けさが好き。
まだ誰も動き出していない時間に、
自分だけの時間を持つのが好き。
何より、夜から朝へと移りゆく空を
眺めるのが好き。
けれど、困ったことが一つある。
早起きをすると、一日がとても長いのだ。
時間がたっぷりあるのは嬉しい。
ところが、その分、いつ眠ればいいのか、
わからなくなってしまう。
そして、実は私……。
眠ることが大好きなのである。
夜中に目が覚めると、
もう眠れなくなるという話も耳にする。
けれど、私はちょっと違う。
もしも、何もしなくていい日が
丸一日あったなら。
きっと私は、
その一日をまるごと
眠って過ごせるような気がする。
朝も昼も夜も。好きなだけ眠って、
目が覚めたら、また眠る。
まるで、眠り姫。
ふふっ。
早起きが大好きな眠り姫。
なんとも矛盾した話ではないか。
でも、考えてみれば、眠ることも、
目覚めることも、
私にとっては大切な時間なのだろう。
眠っている間に心と身体を休め、
目覚めたら、
まだ見ぬ一日の世界へと歩き出す。
そして今朝は、
雲の向こうにいる星たちを想いながら、
夜明けを待っている。
星のいない空ではなく、星を待つ空。
見えない星を心に描けるようになったことも、
早朝の時間が教えてくれた
小さな喜びなのかもしれない。
さて、もう少ししたら、
朝の散歩に出かけよう。
その前に、ほんの少し横になろうか。
いやいや。
横になったが最後、
眠り姫は目覚めないかもしれない。
ふふっ。
今朝もまた、早起きの眠り姫の、
長い一日が始まろうとしている。
— Morimura