お昼の会食を終え、
ホッとひと息つく間もなく、
私は西の拠点へと向かっている。

 
朝からずっと、
時間に追われるように動いていた。
 
出社してから定例会に出席し、
戻ってからは、少し遅れて会議へ。
眠気がそっと肩に凭れかかってくるようで、
他部署の報告は、 
少しばかり遠くに聞こえていた。
それでも、自分の報告だけは、
きちんと済ませたつもり。
そこだけは、気を抜かずにいられたのだから、
今日の私は、
なかなか健気だったのかもしれない。

お昼の会食は、鰻重だった。
蓋を開けた瞬間、
ふわりと立ちのぼる甘辛い香り。
艶やかにたれを纏った鰻が、
白いごはんの上で、
しっとりと横たわっている。 
その姿を見ただけで、
夏の暑さに少し奪われていた力が、
体の奥へゆっくり戻ってくるような気がした。

猛暑が続いているからだろうか。
それとも、土用の丑の日が
近づいているからだろうか。
季節は、ちゃんと美味しいものを連れてくる。 実は、私の今夜の晩ごはん計画も鰻だった。
偶然とはいえ、なんだか気が合う。 
鰻なら、昼と夜の連チャンでも嬉しい。

むしろ、今日のように
息つく暇もない一日には、
そのぐらいの滋養と贅沢があってもいい。 
頑張った体を、
甘やかすように満たしてあげたい。
今夜の楽しみは、
初めてチャレンジする鰻そば。

といっても、
かけそばに 
鰻の蒲焼をのせるだけなのだけれど、
その響きだけで、もう心が艶めいてくる。
温かいお出汁に、十割そば。
そこへ、パリッとジュワッとした
鰻の蒲焼をそっとのせて、
きざみ九条ネギを、ふわりと散らす。
鰻の香ばしさと、
そばのお出汁のやさしい湯気。
九条ネギの青い香りが重なれば、
忙しなかった一日の緊張も、
少しずつほどけていくに違いない。

家族にLINEを送り、
十割そばと、きざみ九条ネギをお願いした。
デパートのポイントもたくさんあったから、
思い切って、
一尾まるごとのせてしまおうかなあ。
そんな小さな贅沢を思い浮かべていると、
移動の疲れさえ、ほんの少し甘く感じられる。

電車は、もうそろそろ西の拠点に着きそう。
午後の予定も、まだ気は抜けない。
けれど、今夜の私には、
初めての鰻そばという楽しみが待ってる。 

夏の熱に少し火照った体を、
香ばしい鰻と、やさしいお出汁で満たす夜。
そのひと椀を思いながら、
私はもう一度、背筋を伸ばす。

鰻そばの湯気に癒やされる夜を楽しみに、
西の拠点へ向かう午後である。