風に吹かれ、風と戯れながら歩いていた。
コンタクトをしていない私の目には、
世界が少しだけぼやけて映っている。
見えるものには限界がある。
でも、それでいいのかもしれない。
景色がはっきり見えなくても、
風さんを感じていられたら、それでいい。
そんなことを思っていると、
心のどこかに入り込んでいた
小さな隙間風まで感じてしまって、
少しセンチメンタルになった。
その気持ちを拾い集めるように、
ひとつの詩にまとめていた。
そのとき、お店からメールが届いた。
ガクッ。
すぐだったらどうしよう。
恐る恐る開いてみると、
35分後のご予約だった。
よかった。
ちょうど近くにいる。
待機所へ戻ってコンタクトをつけ、
お仕事スイッチを入れれば、
きっとシャキッとする。
そのための35分は、
今の私にはちょうどいい時間
なのかもしれない。
「風さん、ちょっと待ってて。
お仕事入ったみたい」
待機所へ戻り、コンタクトを入れる。
カチッ。
まるで本当にスイッチを押したみたいだった。
ぼやけていた世界の輪郭が一気に戻ってくる。
それと一緒に、
お仕事モードのバロメーターも、
ぐんぐん上がっていった。
そして外へ出る。
風さんと再び合流した。
ここで「千鳥」を聴こう。
そうすれば、やる気バロメーターは
一気に振り切れる。
音楽と風をまといながら
大通り公園を突き抜けていると、
ふと一本の樹木が気になった。
高い、高い木。
あれ?もしかして、この木……。
さっき気になっていた、
あの謎の木と同じなのではないだろうか。
写真を撮っておきたい。
けれど、今日はそんな時間はない。
仕方がない。
この謎解きは、明日に持ち越そう。
後ろ髪を引かれながら木をあとにして、
少し遅くなってしまったけれど、
ようやく今日の最初のドアが開きました。
優しい笑顔が素敵なあなたが
迎えてくださった。
「どっち飲む?」そう言って、
二種類の飲み物を用意してくださっていた。
ありがとう。
きっと私の好みがわからないから、
わざわざ二種類買ってきて
くださったのだろう。
いつもならお茶を選ぶところだけれど、
なぜだろう。
今日は午後ティーが飲みたくなった。
午後ティー、久しぶり。
ソファに腰を下ろし、
しばらく寄り添って過ごした。
あなたは寡黙な方なのだろうか。
たくさんの言葉を交わすわけではない。
それでも、そっと触れてくれる手から、
あなたの優しさが静かに伝わってきた。
言葉が少ないからこそ、
伝わってくるものもある。
一緒にお風呂に入り、それからベッドへ。
私からあなたへ、
ゆっくり、優しく触れていった。
気持ちよく過ごしてほしい。
ただ、それだけを思いながら。
あなたが心地よさそうに
してくださるのが伝わってきて、
私もいつの間にか夢中になっていた。
そして私もあなたの優しい温もりに触れ、
心までゆっくりほどけていった。
それから、マッサージを頼まれた。
あまり自信はないけれど、
少しでも気持ちよくなって
いただきたいという気持ちは、
いつも持っている。
自分だったら、
この辺りを押してもらったら気持ちいいかな。
そう思うところを探しながら、
ぐい、ぐい、と力を込める。
あなたはうつ伏せになったまま、
やっぱり寡黙だった。
でも、その静けさがなんだか心地よかった。
きっと気持ちいいのだろう。
そう思いながら、
もう少し、もう少しと手を動かした。
そして再び、あなたの腕の中へ。
優しさと温もりに包まれながら、
夜のとばりの中にキラキラと光る、
素敵な夢をひとつ見たような気分になった。
また、お待ちしています。
あなたとお別れして外へ出ると、
待っていたように風さんたちが
私のところへ集まってきた。
そして途端に、お腹が空いた。
ローソンに行こうかな。
唐揚げくん、買おうかな。
立ち止まって、しばし考える。
いやいや。
待て、私。
まだ炊き込みご飯のおにぎりが一つ
残っているではないか。
私は炊き込みご飯のおにぎりが好きだ。
だから、おにぎりは絶対に食べたいし、
明日には持ち越せない。
それなら——。
潔く、唐揚げくんは諦めよう。
「風さん、やっぱり今日はやめるわ。
唐揚げくんは明日までおあずけね」
そう言って、また歩き始めた。
待機所へ戻ったら、
大好きな炊き込みご飯のおにぎりを食べよう。
そう思うだけで、足取りが少し軽くなる。
風はだんだん強くなり、
私の周りをぐるぐると回り始めた。
さっきまで心の中に吹いていた
少し寂しい隙間風を、
今度は外から吹く風が、
そっと追い出してくれているようだった。
朝から見えていたものも、
ぼやけていたものも、
今日出逢った人の心も、
すべてをはっきり見ることなんてできない。
それでもいい。
見えなくても、感じられるものがある。
優しさも。
温もりも。
そして、風も。
やっぱり私は、
風さんが好き。
あなたがそばにいると、嬉しい。
風は、ぼやけない✨
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