心のサンクチュアリーで出逢った、
海に揺れる一本の光の筋。
その光は、
心の中にしまわれたのではなく、
私自身の中へと静かに溶け込んでいった。
少しだけ磨かれたような心で、
さあ、今日という
新しい一日の物語を始めよう。
――ところが。今日もまた、
システムに怒られてしまった。
だいたいの文章の
イメージはできていたのだけれど、
心のサンクチュアリーの
新しい意味に気づいた途端、
どうしても書き加えたくなってしまったのだ。
だからまた、
システムと格闘すること約一時間。
でも今日は、身体がほてっていない。
なぜなら、
大さん橋の小さな桟橋の陰、
日陰になった芝生の上に
仰向けに寝転びながら、
日記を書いていたから。
涼しい。
気持ちいい。
顔を上げれば青空。
周りからは、海の風と海の香り。
朝の日記を書く場所として、
なんて贅沢なロケーションなのだろう。
ただし、一つだけ難点があった。
芝生が伸びすぎていて、
背中も頭もチクチクする。
でも、そのチクチクにさえ次第に慣れてきた。
このままずっと、ここに寝転んでいたい。
そんなことまで思った。
時間はずいぶんかかったけれど、
心ゆくまで文章を書くことができた。
これでいい。
これでいいのだ。
以前の私なら、
きっと焦っていた。
早くしなくちゃ。
次へ行かなくちゃ。
でも今は、そう思わない。
自分がやりたいこと。
どうしても今、やっておきたいこと。
それを心が選び、心が決めたのなら、
その時間をちゃんと生きればいい。
そう思えるようになった。
そして今度は、私の心が叫び始めた。
パン屋へ行こう。
風さんは、日記を書いている間も、
ずっと涼しい風を送ってくれていた。
そして今も、
本町通りを歩く私についてきてくれる。
ふわり。
また気持ちのいい風が、
身体をすり抜けていった。
ふと見ると、
小型扇風機を片手に、
オフィスへ向かう人がいた。
ふふん。
ちょっと自慢したくなった。
私の風さんは、
自然の扇風機みたいなものよ。
小型扇風機より、ずっと気持ちいい。
しかも、荷物にもならない。
そう思ったら、少し可笑しくなった。
空は、もうだいぶ晴れている。
そして――お腹が空いた。
水もなくなった。
早くパンを食べたい。
水も飲みたい。
今までの哲学的な思索はどこへやら。
今度は食欲と喉の渇きを全面に出して、
私は歩幅を大きくし、
ずんずんと前へ進んだ。
もうすぐ、七番出口が見えるはず。
急にスピードアップした私に、
風さんは少し驚いたかもしれない。
それでも、私の速さに合わせて、
ちゃんとついてきてくれた。
心の中へ溶け込んだ海の光に、
さらに風が吹き込んでくる。
そのたび、心の中まで
なめらかに整えられていくようだった。
今日は、素敵な曲が聴けるだろうか。
そんな淡い期待も、胸の中にあった。
前方を見る。
信号が、もうすぐ青へ変わる。
走る。
走る。
転ばないように気をつけながら、
それでも走る。
息を切らして信号を渡ると、
すぐそこに、地下へ続く階段が見えてきた。
七番出口。
私はこれまで、この場所を何となく
「地下への入口」と呼んでいた。
でも、今日は名前をつけてみたくなった。
この階段を降りれば、
お腹を満たしてくれるパンが待っている。
そして運がよければ、
地下のピアノから流れる曲が、
遠い記憶をそっと呼び起こしてくれる。
まだ何が待っているのかわからない、
小さな未知の世界へも続いている。
身体の欲求も。
懐かしい記憶も。
まだ知らない何かへの期待も。
そのすべてを抱えて、
私は地下へ降りていく。
だから今日から、
この階段を、
「心の奥へつづく階段」と呼ぶことにした。
一段。
また一段。
まるで自分の心の中を、
少しずつ覗き込みに行くように。
階段を降り、
パン屋へ向かった。
オープンから、もう三十分ほど経っている。
今日は、私の好きなパンや、
マフィンやフォカッチャは見当たらなかった。
でも、新商品の
フレンチトーストの野菜サンドを見つけた。
これにしよう。
フレンチトーストが少し小さめだったので、
ミニパンはいつもより多めに。
気づけば、ミニパンも
とうとう三種類に絞られていた。
でも、それでいい。残った三種類は、
ちゃんと私の心が選んだ、
好きなものなのだから。
パンを手に、
今度は五番出口から地上へ上がった。
そして、また馬車道へ戻っていく。
でも、これは後戻りではない。
同じ道を歩いていても、
私はさっきの私ではない。
心のサンクチュアリーで受け取った光。
風さんから受け取った涼しさ。
心の奥へつづく階段を降りながら、
拾った小さな期待。
そして、パンを手にした素直な喜び。
それらがまた、
少しずつ私の中へ溶け込んでいる。
さあ。
この風景も、言葉にしておこう。
また新しく気づいた心を、
ちゃんと残しておこう。
私は、いつものベンチを目指して歩いた。
そこへ腰を下ろし、
また一つ、
今日という物語を書こう。
心の奥へつづく階段を、
一度降りて戻ってきた私は、
同じ場所に戻ってきたように見えて、
ちゃんと、少し先へ進んでいる。
心の奥へつづく階段✨
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