1時間くらい眠ったのだろうか。
それとも、1時間半くらい?
眠っていたような、起きていたような。

すぐに眠れた感じはないのに、
気づけば時間だけが静かに過ぎていた。
目を覚ますと17:10。
遅めのお昼を食べたり、
今日の居場所を整えたりしていたから、
眠ったのは16:00頃だったのかな。
やっぱり1時間くらいか。

いつもの場所ではなかったから、
あまり深く眠れなかったのかもしれない。
次のご予約は20:00。
それまでは、
なんとなく静かな時間になりそう。

もう少し眠ろうかとも思ったけれど、
外の空気を吸いたくなって出てきた。
そういえば、
眠ったり目を覚ましたりするたびに、
朝買ったミニパンを、
ぱく。ぱく。ぱく。
一口ずつ口へ放り込んでいたような気がする。

遅いお昼なのか、
おやつなのか、
早い晩ご飯なのか。
もう、よく分からない。
だって、ここのパン、美味しいんだもん。

いろいろ食べてみたけれど、
最近ではミニパンのお気に入りも
三種類くらいに絞られてきた。
ナンバーワンは、やっぱりミルクパン。
ナンバーツーは、メロンパンかな。

そういえば、
このパン屋さんの名前を日本語にすると、
「フランスの生活」という意味になるらしい。
フランスの生活。
なんだか、それだけで
少しおしゃれな響きに聞こえる。

このお店のパンは、
毎朝少しずつ違う顔ぶれが並んでいて、
どれもどこか気取らない。
でも、ちゃんと洒落ている。

そんなパンを眺めていると、
ふと「フランス」という言葉が頭に浮かんだ。
フランスと聞いて、
私が思い浮かべるのはパリジェンヌ。
おしゃれ。

でも、以前読んだ本で知った
パリジェンヌのおしゃれは、
私が想像していたものとは少し違っていた。

たくさんの洋服を持つのではない。
自分に似合う、上質でシンプルなものを選ぶ。
そして、数少ない服を自分らしく着回す。
流行を追いかけるのではなく、
好きなものを、長く、大切にする。
その考え方が、とても素敵だと思った。

シンプルなのに、おしゃれ。
頑張っているようには見えないのに、
どこか格好いい。

今思えば、
毎朝眺めているあのパンたちにも、
少し似たものを感じているのかもしれない。
派手ではない。豪華すぎるわけでもない。
でも、ひとつひとつに小さな工夫があって、
眺めているだけでも楽しい。

そして口にすると、
「ああ、朝ごはんっていいな」と
思わせてくれる。

以前から知っていたお店なのに、
こんなに興味を持って
パンを眺めたことはなかった。
きっと最近の私にとって、
朝のパンを選ぶことそのものが、
小さな楽しみになったのだ。

明日は、何を食べようかな。
そんなことを考えながら、空を見上げた。

あれ?雲まで、パンに見えてきた。
ふっくら膨らんだ白い雲。
細長く伸びた雲。
少し焦げ目のついたパンみたいな、
光と影のある雲。
気がつけば空の上に、
シンプルだけれど、
とびきり洒落た朝の食卓が広がっていた。

ふわっ。風が吹いた。
風さんが私を見つけて、
こちらへ集まってくる。
「何をそんなに考えていたの?」
「うーん……ちょっと心だけ、
フランスへ行ってた」
風さんが、「え?」という顔をした。

私は思わず笑った。
横浜の夕方にいるはずなのに、
私の心はほんの少しだけ、
遠いフランスを旅していた。