1時間と少し眠った。
先ほどの1時間と少しを合わせれば、
2時間半ほど眠ったのだろうか。
それなのに、なんだかすっきりしない。
眠ったのか、眠っていないのか、
自分でもよくわからないような時間だった。

途中で目を覚ましたとき、
晩ご飯代わりにおにぎりをひとつ食べた。
そして、そのまままた横になったせいか、
胃が少し重たい。
そろそろ、ご予約の時間が近づいてきた。

外へ出る。
ふわっ――。
風が下から吹き上げてきた。
もうすっかり暗くなっていたのに、
風さんはすぐに私を見つけてくれたらしい。
大きく揺れながら
向かい風になってやってきて、
正面から私の顔をさっと撫でる。
そして左右に分かれ、
そのまま後ろへ流れていった。
その風に吹かれた瞬間、
ぼんやりしていた頭が少しだけ目を覚ました。

夜の帳が降りた大通り公園。
昼間のように木々の緑を
はっきり見ることはできない。
それでも、 
ところどころに灯る明かりに照らされ、
木々が静かに浮かび上がっている。

私は、こんな夜の景色が好きだ。
ショータイムのような
華やかなライトアップではなく、
必要なところに、ほんの少しだけ光がある。
そんな控えめな明かりの方に、
私は風情を感じる。

風がそよぐ。
木々が揺れる。
セミの声が聞こえる。

言葉だけを並べれば、
朝の風景とそれほど変わらないのに、
夜になると、すべてが違う表情を魅せている。 

風さんもそうだった。
急に激しくなったかと思えば、
すっと静かになる。
そして、また思い出したように
大きな風になって押し寄せてくる。

風さん、今夜はずいぶん
感情の起伏が激しいのね。
もしかしたら今夜は、
ドラマチックな夜になるのかもしれない。
やっぱり、夜だから。

そんなことを思いながら、ホテルへ向かった。
これが今日、
最後のドアになるのかもしれない。

そして、ドアが開きました。
そこには、久しぶりに逢えたことが
とても嬉しいあなたがいた。

私を見て、にっこり微笑む。
「久しぶり」
「わあ、久しぶり」そう答えた次の瞬間、
思いがけずあなたの腕に包まれた。
びっくりした。
でも、ドキドキしながら身を預けていると、
その温もりがとても心地よかった。

優しく触れられながら、
何度も「綺麗だよ」と言ってくださる。
その言葉と優しい温度に、
心までゆっくりほどけていくようだった。

今度は私からあなたへ。
優しく、ゆっくり、心を込めて触れていく。
「気持ちいい」
そう言ってくださる一言一言が、
私の胸に静かに響いていた。

そして、あなたの温かな胸の中で
過ごした時間は、
熱を帯びながらもどこか心地よく、
まるで真夏の夜に
ひとときだけ見た夢のようだった。

「また来るよ」
「うん。また待ってるね」
そうして、あなたとお別れした。

外へ出ると――風さんが待っていた。
ふわり、ふわり。
時折、わあっと音を立てるように、
大きな風の波が押し寄せてくる。

この時間になると、
外の風が本当に気持ちいい。
さっきまでの夢のような時間の熱を、
風さんが少しずつ夜の中へ
溶かしてくれているようだった。

風さん、ちょっと待ってて。
お腹が空いたから、
私の好きなさけるチーズでも買ってくるわ。
――いいよ。待ってるよ。
そんな声が聞こえたような気がした。

マイバスでさけるチーズをふたつ買って、
また外へ出る。
さあ、風さん。
いつもの場所へ行こうか。
今夜見た真夏の夜の夢を忘れないうちに、
あなたと一緒に日記に書き記そう。