11:45を回った。
そろそろ準備もできた。
お店へ出勤しよう。
出かける前に、
もう一度部屋の中をぐるりと見回す。
よし。
抜けはなさそう。
これで明日の朝、
お風呂から上がってから
残りをすべて片付ければいい。
この部屋に三分休符を置くのは、
まだ明日の朝。
今は、それまでのインターミッション。
さあ、いつもの日常へ戻ろう。
お店へ行って、
まずは今日一日の居場所をつくる。
いつもの巣作りから始めよう。
エレベーターを降り、
2階から1階へ続く階段を下りる。
ふわっ。
風が髪をさらった。
「あ、風さん。待っていてくれたの?」
今日も一緒にいてくれるようだ。
「今日お店へ出たら、明日から5日間お休みね」「そうなの。だから今日が終わったら、
お店にもちゃんと休符を置いてこなくちゃ。
でもね、
今日はまだ何にも予定が入ってないの。
ちょっぴり寂しい、
静かな最終日になりそうな予感がするわ」
すると風さんが、そよそよと頭を撫で、
頬を撫でてくれた。
「そんなこと、
今から気にしても仕方ないでしょう。
風の向くまま、気の向くまま。
それにあなた、
今日は少し休んだほうがいいんじゃない?
ゆっくり休みながら待っていればいいのよ」
やっぱり慰めてくれているのかな。
そんなことを思いながら、ふと見上げた。
そこには、
名前を取り戻したあの木が立っていた。
本来の名前を取り戻したからだろうか。
いつもより堂々と佇んでいるように見える。
太陽の光を受けた葉は、
緑をいっそう深く輝かせ、
風に吹かれて、そよそよと揺れていた。
やっぱり、あなたも嬉しいのね。
ずっと違う名前で呼ばれていたんだものね。
でも、木の名前なんて
気にも留めずに
通り過ぎていく人のほうが
多いのかもしれない。
少し前までの私も、きっとそうだった。
そこに木がある。
ただ、それだけだった。
けれど今は違う。立ち止まり、
見上げ、
葉の形を見て、
風に揺れる音を感じ、
あなたの名前まで
知りたいと思うようになった。
変わったのは、木ではなく、
私のほうなのかもしれない。
「風さん、私もこの木みたいにいようかな」
何が起こるかを先回りして心配せず、
何も起こらないことを寂しがらず、
風が吹けば、そよそよと葉を揺らし、
太陽が差せば、その光を受け取る。
何ごとにも動じず、
ただ自分らしく、そこに佇んでいる。
風の向くまま。
気の向くまま。
今日という余白に何色がつくのかは、
まだわからない。
だったら、心を開いて待っていよう。
私自身の光を、色濃く放ちながら。
「じゃあ、行ってくるわね。
お仕事が入って外へ出るときには、
また迎えに来てね」
風さんが、
もう一度ふわりと髪を撫でた。
そして私は、
今日の居場所へ向かって歩き出した。
名前を取り戻した木のように🌿
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