21:00少し前、待機所へ戻った。
自分の居場所を片付け、日記をアップする。
時計を見ると、そろそろ21:30。
最後のドアが開くのは22:00。 

残された時間は、もうほんの少ししかない。
そのわずかな時間で、
頼まれていたレストランを探していた。
せっかくなら、
自分も心から
行ってみたいと思えるお店がいい。
でも、なかなか「ここ」と
思えるところが見つからない。

そうこうしているうちに、
そろそろ出かける時間になった。
待機スペースのカーテンを開ける。
そして、ここにもそっと三分休符を置いた。
「しばらくお別れね」

外へ出ると、風さんが待っていてくれた。
そうだった。
次に出かける時間を伝えてあったんだ。
「風さん、ありがとう。
これが最後のドアよ」
「そうね。素敵な時間になるといいね。
どんな色に染められて帰ってくるのかな。
楽しみだわ」
また私の心の中を見透かされているみたい。

そして――最後のドアが開いた。
深く大きな瞳が印象的なあなたが、
にっこり微笑んで迎えてくださった。

話す声も柔らかく、言葉遣いも丁寧。
その佇まいから、温かな人柄が伝わってくる。
二言、三言と交わしていた言葉は、
いつの間にかたくさんの会話になっていた。

ソファで二人、寄り添いながら話す。
時折、あなたが私の肩に手を回す。
私はそのまま、あなたにもたれかかった。

やがて、あなたが照明を少し落とした。
薄暗い部屋に浮かび上がる赤銅色の光。
そこへ昼間の太陽の名残のような、
黄色みを帯びた黄金色が重なる。
そして、その周りを包み込む夜の闇。
光と影が奏でる旋律は、
まるで夜明けから昼を経て、
夜へ向かう一日の移ろいを
魅ているようだった。

私は、あなたにそっと触れた。
優しく、優しく。
時折びくりと身体を起こす
あなたの様子を見るたび、
気持ちが伝わっていることが嬉しかった。

そっと頭を撫でながら、顔を魅つめる。
大きな瞳の中に、部屋の光が映っていた。
赤銅色。
黄金色。
そして、夜の闇。
そのすべてを映した瞳が、
きらきらと輝いている。

今度は、あなたが私に触れる。
優しくて、
温かくて、
心地いい。
その温もりに身を委ね、
胸元へそっと顔をうずめた。
ふと見上げると、
あなたの横顔は、
赤銅色と黄金色が溶け合った
美しい光を纏っていた。

その光を魅了つめていると、
私まであなたの中へ
溶け込んでしまいそうだった。
温かな光のオーラに包まれながら、
私は、真夏の夜の夢を見た。
「ありがとう。また待っていますね」

あなたと別れ、ホテルを出た。
そこには、風さんが待っていた。
「お疲れさま。
なんだかキラキラ輝いているよ。
素敵な人だったみたいね」
「そうよ。私より年下だったけれど、
とても温かくて、優しい人だった。
それに、あの素敵な瞳で見つめられると、
溶けてしまいそうだったわ」

風さんは、「うふふ」と一言だけ。
そして、私の周りを
楽しそうに踊るように吹いていた。

今日、最後のドアの向こうで出逢った色。
それは一色ではなかった。
夜の闇に浮かぶ赤銅色。
そこへ溶け込んだ黄金色。
そして、その二つの光を映して輝く瞳。

一日の最後に、
またひとつ美しい光を心にもらった。
「さあ、風さん。早くお店へ戻りましょう。
そして、一緒にお部屋へ帰ろう」
ふわり。風さんと並んで、
私は最後の帰り道を歩き始めた。