寝たのか、寝ていないのか、よくわからない。
ただ一つだけ確かなのは、
朝ごはんはちゃんと食べたということ。

3時間17分かけて、新大阪に着いた。
地震の影響で静岡あたりで
少し待っていたため、
到着は3分ほど遅れたようだ。
でも、乗り換える特急までは
もともと44分ほど時間があったから、
大した影響ではない。

少しゆっくりできるかな。
そう思っていたのだけれど――。
トイレへ行ったら、ものすごい行列。
人に揉まれ、揉まれ、
思った以上に時間を取られてしまった。
「どうしてここのトイレって、
いつもこんなに並んでいるのかしら。
もう少し増やしてくれたらいいのに」
心の中でぶつぶつ。

結局、カフェでお茶をする時間もなくなった。
頭も重い。
まぶたも重い。
お土産をぶらぶら見て回ろうという
気力も湧いてこない。
駅の構内も人。
カフェも人。
売店も人。
トイレも人。
どこを見ても、人、人、人。人いきれに、
だんだん息苦しくなってきた。
ああ、外の風に当たりたい。

そう思った瞬間、ふと気づいた。
そういえば――。
「風さん、どこにいるのかな」
もしかしたら、
ホームへ行けば会えるかもしれない。
少し早いけれど、
ホームへ下りることにした。

すると、ふわーり。ふわーり。
生ぬるい風だったけれど、
風さんがやってきた。
私の顔を見つけて、
「あ、いた」とでも言うように、
嬉しそうに吹いてくる。

「風さん、私、なんだか疲れちゃった。
眠たいんだけど、落ち着いて眠れないの。
少し風に当たらせて。
頭を冷やしてちょうだい」

すると――。
キュー、キュー、キュー。
ホームへ入ってくる電車に合わせて、
風さんは一気に風力を“強”にした。
「ああ、気持ちいい。ありがとう、風さん」
火照っていた頭が、少しずつ冷えていく。

そろそろ、
私の乗る特急がホームへ入ってくる頃だ。
早く座席に座って、ゆっくりしたい。
和歌山までは1時間10分ほど。
今度こそ、絶対に寝よう。

和歌山へは、
月に一度の打ち合わせで定期的に訪れている。『暴れん坊将軍』が好きな私にとって、
和歌山へ向かうというだけで、
どこか心が弾む。

それに、和歌山には海がある。
潮の香りがする。
海からの風を感じられる。
きっと和歌山の風は、
横浜の風と少し似ている。
そんなことを考えていたら、
眠たいくせに、
今度はお昼ごはんのことが頭に浮かんできた。

今日のランチは、
何を食べに連れて行ってもらえるのかしら。
やっぱり、鰻重がいいな。
外はカリッと香ばしく、
中はふっくら、じゅわっとジューシー。
あの蒲焼きを想像しただけで、
ちょっと元気が出てくる。

でも、お蕎麦もいい。
朝そば時間を手放したこの11日間、
そういえば一度もお蕎麦を食べていない。
和歌山に、
私の好きなニシンそばはあるかしら。
でも今日は暑いから、冷たいざるそばもいい。
それとも、冷やしおろし。
……天ざるもいいけど、
少し胃が重くなるかもしれないな。

眠たい。疲れている。
それなのに、
食べることになると途端に頭が働き始める。
我ながら、そこだけは抜け目がない。

そしてもう一つ、忘れてはいけない。
今日も帰りに、
和歌山銘菓「かげろう」を買って帰ろう。
家族へのお土産に。

さあ、風さん。もうすぐ特急が来る。
今度こそ私は、
座席に身体を預けて眠るつもり。
その前にもう少しだけ、
この風に吹かれていよう。