うとうと眠っていたら、
フェイシャルが終わったようだ。
「いかがですか?」
まだ横になっている私のそばまで
鏡を持ってきてくれた。
寝起きのような目で覗き込む。
あ。
一瞬、顔がぱっと明るくなったように見えた。
なんだか明るく輝いている。
肌に透明感とみずみずしさが
戻ってきたようだった。
ほんの小さなことなのに、嬉しい。
今日は朝から、なんだか水にご縁があるなあ。
そんなことを思いながら外へ出た。
少し時間に余裕があったので、
頼まれていた崎陽軒のシウマイを買う。
そこで長期保存できる
真空パックの新商品を見つけ、
面白そうだから家で食べてみようと、
それも一緒に買った。
いくつか買うと、
シウマイって結構重たいのね。
傘も持ってきたけれど、
雨は降りそうで降らない。
そして久しぶりに大岡川のそばへ出た。
来るときにも見ていたはずなのに、
急いでいたからだろう。
こんなに大きな川なのに、
ほとんど目に入っていなかった。
今度は橋の上で足を止めた。
水面は静かだった。
けれど、よく見ると風に揺られて
小さく波打っている。
橋の陰では、柔らかく届く風を受けて、
大きくゆらゆらと揺れている。
あ、鳥。
空を飛んでいる鳥が、水の中にもいる。
周りの建物まで、ゆらゆら揺れている。
やっぱり水面は、風景を映す鏡なんだ。
そしてきっと、心を映す鏡でもある。
心が揺れているときには、
風景まで少し歪んで魅える。
けれど心がすっきりしているときには、
同じ揺らぎさえ澄んで、
美しく、優雅に魅える。
今の私には、
この揺らぎがとてもきれいに魅えた。
ふと我に返り、
今日一日の未来の姿を思い描く。
14時からお店に出勤する。
それまでは少しゆっくりできそうだ。
お昼ご飯もゆっくり食べられそう。
おにぎりだけどね。
ちょっとスナックも食べちゃおうかな。
そんなことを考えていると、
風さんがやってきた。
あ。
この通りにも、
天狗のうちわみたいな葉っぱをした木がある。
ユリノキだった。
今まで何度も通っているのに、
全然気づかなかった。
「風さん、どう? 私の顔」
「なんか、いつもよりツヤツヤしてるね」
「そうでしょ。前回予約をミスって、
ちょっと間が空いちゃったもん。
だから今日は、
なんだか顔がすっきりしてる気分よ」
「よかったじゃない」
「でもね、顔はすっきりしてるんだけど、
今日は何もご予約がないのよ。
心の中も外も磨いてきたのに、
お披露目する機会がないという
寂しい結果に終わるかもしれないわ」
「それはそれでいいじゃない」
風さんは、ずいぶん気軽に言った。
でも、確かにそうかもしれない。
そんな余計な心配は、風に流してしまおう。
なるようになるわ。
ケセラセラよね。
ドラッグストアの前を通ったら、
グリーンコーラとアイスコーヒーが安かった。
安いから、と、
ついついたくさん買ってしまった。
しまった。
崎陽軒のシウマイだけでも結構重かったのに、
今度はペットボトル軍団が
ずっしり腕に食い込む。
でも、コンビニで買うよりだいぶ安いのよね。
そんな言い訳をしながら歩いていて、
水を買うのを忘れたことに気づいた。
でも、もう戻るパワーはない。
水ぐらい、
お店へ行くときにコンビニで買っちゃおう。
そういえばコンタクトのケースも忘れた。
まあ、それも次でいいか。
ドラッグストアなんて、少し歩けばある。
それなのに普段は、
そこへ行くだけの時間の余裕も、
心の余裕も、案外ない。
なぜだろう。
たぶん私は、その余白ができると、
朝のウォーキングに使ってしまうから。
風さんと歩くことに使ってしまうから。
空を見たり、
木を見つけたり、
水面を覗き込んだり、
自分の心の中を旅
したりすることに使ってしまうから。
だから今日も、
買い忘れたものはまた今度でいい。
水はあとで買えばいい。
今しか出逢えない水面の揺らぎは、
今、見ておけばいい。
そう思うと、
腕に食い込むペットボトルの重ささえ、
なんだか少し可笑しくなった。
水面には、揺れる街が映っている。
そして私の心には、
次の時間へ向かうための小さな余白が、
静かに残っていた。
水に映った余白✨
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