大さん橋に立つと、
風が一気に吹き抜けた。
髪をさらい、
服の裾を揺らし、
遠い時代へ旅していた私の心まで
ぐっと今へ連れ戻すような風だった。
さっきまで私は、
大和の野を歩いていた。
まだ国のかたちも定まらぬ頃、
何かを信じ、何かを願い、
迷いながら生きた人たちの声を
朝霧の向こうに聞いていた。
けれど風さんは、
そんな私の肩を軽く叩く。
――戻っておいで。
海が光っている。
空が動いている。
船がゆっくりと進んでいる。
そして私も、
ここにいる。
歴史を想うことは、
過ぎ去った時間へ
逃げてゆくことではないのだろう。
あの人たちもまた、
自分たちにとっての「今」を
懸命に生きていた。
後の世から見れば
歴史と呼ばれるその一日も、
彼らにとっては
まだ何も決まっていない朝だった。
そう思うと、
私の今日も少し違って魅えた。
この空も、
この風も、
胸の奥で生まれた小さな思いも、
二度とは同じ形では戻ってこない。
だから私は、
遠い時代から持ち帰ったものを
そっと胸にしまう。
そしてまた歩き出す。
過去を愛しながら、
未来をまだ知らないまま、
今という一瞬を生きるために。
大風が吹く。
その風の中で、
私の心はようやく
今日へ還ってきた。
大風、心を還す✨
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