斑鳩の空にも、
ひとつの季節が
終わろうとしていたのだろうか。

空を渡る風は、
まだ少し冷たく、
野には淡い光が降りていた。

王子は何を見ていたのだろう。
造りかけの国。
まだ名も定まらぬ明日。
争いの絶えぬ人の世。

祈れば届くと
信じた夜もあっただろう。

言葉を尽くしても
届かぬ心があることを知り、
それでもなお、
人は和することができると
願った朝もあっただろう。

国を思う者である前に、
ひとりの人だった。

誰かを愛し、
誰かを案じ、
眠れぬ夜には
遠い星を見上げたかもしれない。

そしていつか、
自分の時間にも
終わりが来ることを知ったとき、

王子は
何を手放し、
何をこの世に残そうとしたのだろう。

すべてを成し遂げることなど
できなかった。

けれど、
それでよかったのかもしれない。

人はみな、
完成した世界を残して
去るのではない。

まだ途中の夢を、
次の誰かの手のひらへ
そっと渡してゆく。

斑鳩の空に
風が吹く。

千四百年を越えて、
その風は今朝の私の頬にも触れた。

王子よ。

あなたが見届けられなかった続きを、
私たちは今も生きている。

迷いながら。
傷つきながら。
それでも誰かと
手を取り合おうとしながら。

あなたの時代も、
私たちの時代も、

きっと同じ。

誰にも未来は見えない。

だからこそ人は、
今日という一日に
小さな願いを置く。

遠い斑鳩の空から
一筋の光が差したような気がした。

それは歴史の光ではなく、
ひとりの人が
次の時代へ残した、

まだ消えていない
心の灯だった。

遠き斑鳩の厩戸の王子――
後の世に聖徳太子と呼ばれた人へ、
愛を込めて。