ここ数日、
早い時間に歩き出した朝は、
7時のカフェが開くまでの時間調整のために、
大さん橋の帰りに同じベンチへ座っていた。
けれど今日は少し違った。
ただ時間を埋めるためではなく、
帰りではなく行きに、
なんだかそこに座ってみたい気分だったのだ。
傘を横に置いて腰掛けた瞬間、
急に目頭が熱くなった。
頭の奥で、何かが一斉に動き出す気配がした。
足は止まっているのに、
心の中では私が駆け足をしていた。
過去のどこかへ、何かを探しに行くように。
脳裏にはたくさんの風景が
次から次へと飛んできて、
何が何だかわからないほどだった。
でもきっと、
昔の私が拾い集めてきた記憶たちが、
今の私に見つけてほしいと
光を求めていたのだろう。
そう思いながら、
大さん橋という
私の心のサンクチュアリーへ向かった。
強い風と波の音は、
これから幕が開くステージの
ファンファーレのように響いていた。
着いて空を見上げたとき、
薄いグレーの雲の中に、
ひとりの女性の姿が魅えた。
遠くを指さし、
堂々と立ち、
何かを歌っている。
その姿に、私は額田王を重ねた。
「今は漕ぎ出でな」
その言葉が、遠い時代から
今朝の私に向かって届いた気がした。
彼女が指さしたのは、
ただ海の向こうの戦地ではなく、
そのさらに先にある新しい時代、
新しい国の光だったのではないか。
そう思うと、
私もまた、
彼女の指し示す方を魅ていた。
未来はまだ雲に隠れていていい。
ぼんやりしているくらいでちょうどいい。
それでも私は、
毎朝一歩ずつ歩きながら、
自分の物語を紡いでいく。
その先で、
いつか進むべき方向が、
今よりもっとはっきり魅えてくるのだろう。
雨にも風にも揺らされながら、
それでも前へ進む。
ときどき神様の贈り物を受け取りながら。
そうして今朝、
私の心の新芽に、
何か小さな光が
きらりと灯ったような気がしていた。
雲さす方へ✨
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