神様のポケットには
小さな雲がいくつも入っていて

霧雨の朝には
いちばんやさしい雲をひとつ

ぽつりぽつりの朝には
少しだけ気まぐれな雫をひとつ

本降りの朝には
たっぷり水を含んだ雲をひろげ

嵐の朝には
風と雷まで抱き合わせて
どさりと空へ送り出す

だから昨日の雨も
一昨日の風も
ただ私を濡らしただけではなかった

そのたび心は
飛鳥へ
吉野へ
遠い時代の光の中へ旅をした

神様はきっと
ポケットの底にしまっていた
古い記憶まで
そっと私に渡してくれたのだ

なくしたはずの飛鳥ノート
届かなかった高い枝の葉
そして
まだ形の見えない未来まで

大さん橋の空の下
雲の中の女神は
遠くを指さして歌っていた

今は漕ぎ出でな

魅えなくてもいい
ぼやけていてもいい

私は今日も
その指し示す光の方へ
回り道をしながら歩いていく

ときどき
神様のポケットからこぼれる
ひとしずくの贈り物を
受け取りながら