真っ白な紙を前にして、
大きな筆を握った。

今日、書きたい文字は、

白。

白は、
何もない色だと思っていた。

まっさらで、
まだ何にも染まっていない色。

けれど今朝、
私は違う白を見つけた。

山の谷から、
次々と湧き上がる白。

遠い記憶も、
喜びも、
涙も、
迷いも、

一つずつこの手で掬い、

今の私と重ね、

もう一度、
自分の中へ還してゆく。

消すのではない。

忘れるのでもない。

なかったことにするのでもない。

抱えられる私になって、
白へ還す。

だから私の白は、
何もない白ではない。

いくつもの色を抱いた白。

何層にも、
何層にも、

生きてきた時間を重ねた白。

これからだって、
きっといろんな色に染まる。

うれしい色。
悲しい色。
迷う色。
まだ見たことのない色。

人生という冒険の途中には、
これからもいくつものクエストが待っている。

でも、もう怖がらなくていい。

そのときは、
またこの手で掬えばいい。

今の私と重ねて、

自分の言葉を与えて、

また一つ、白へ還せばいい。

大きく息を吸う。

筆を上げる。

迷わない。

一気に、白。

黒い墨で書いたその一文字を見て、
私は少し笑った。

白なのに、黒い。

でも、

それでいい。

黒まで抱けるから、

白なのだ。

私の白は、

生きるほどに濃くなる。

深くなる。

そして、

熱く、輝いてゆく。

— Morimura