予想していたよりも、
外はずっと寒かった。

風も冷たい。
コートを羽織ってきて、
本当によかったと思った。

万が一のために置いていた一枚だったけれど、
今日はその一枚にずいぶん助けられた。
これがなかったら、
この薄着だけではきっと寒かっただろう。

次に来る頃には、
ライトダウンでも
一枚持ってきた方がいいのかもしれない。
そんなことを思いながら歩いていた。

少し前まで、
私は群青の世界へあともう少しと
いうところにいた。
若様の扉を開こうとしていたはずだったのに、
私が手に取ったのは群青ではなく、
黒いアイマスクだった。
そして、そのまま眠っていた。

どれほど眠かったのだろう。
アラームが鳴ったときには、
そのままずっと眠っていたいと思うほど、
深く眠っていた。
それでも、
出勤する前に1時間。
そして出勤したあとにも1時間。
少しずつ眠りを重ねたおかげで、
重かった頭が
少しだけ軽くなったような気がした。

そういえば、
美容院が早く終わったら、
ブルーラインに乗って
十番館へ行こうと思っていたのだった。
だから朝のウォーキングのときに、
わざわざ場所まで
確認しに行ったはずなのに。

いざ時間ができると、
私は十番館はなく、
無意識のうちに眠る方を選んでいた。
きっと身体の方が、
今の私に必要なものを
知っていたのだろう。

そして、
あなたとの待ち合わせ場所へ向かった。
少し早めに着いて、
辺りを見渡していると、
あなたの姿が見えた。

その瞬間、
胸の奥がふっと弾んだ。
私は手を振りながら、
あなたのそばへ駆け寄った。
あなたの名前を、
大きな声で呼びながら。

久しぶりに見るあなたの笑顔。
その笑顔を見ただけで、
さっきまでの眠たさも、
冷たい風も、
どこかへ飛んでいってしまったようだった。

逢えた。そのことだけで、
心の温度が少し上がった気がした。

そして、
いつものようにコンビニへ。
ビールと、おつまみ。
今日の私はサッポロ赤星。
キリンラガーの
リニューアル版のような、
赤い缶も気になったけれど、
500ml缶しかなかったので却下。

500mlでも飲めないわけではない。
けれど、
どういうわけか私の手首は、
350ml缶の重さに
ちょうど馴染んでいるらしい。

力が弱いわけでもないのに、
ロング缶を持つと、
ほんの少しだけ違和感がある。
そんな小さなこだわりも、
私らしいといえば私らしい。

ホテルに着いて、
あなたと乾杯。

そして今日も、
ソファが私たちの居場所になった。
ベッドはほとんど出番がない。
ソファに横並びに座りながら、
それぞれのお酒を飲む。

私はビール。
あなたはハイボール。

その横で、
おつまみを食べているのは、
ほとんど私。

エビチリ、
スライスしたサラミ。
そして、
最近ちょっと気に入っている
穂先メンマ。
なぜだか妙にお酒に合う、

ところが、
ホテルには割り箸がなかった。
「割り箸ないね。どうしよう」
そう言う私に、
あなたはあっさり、
「手でつまめばいいじゃん」とおっしゃった。

一瞬、
えっ、と戸惑ったけれど、
結局私は
手でちょこちょことつまみながら食べていた。
これぞまさしく、
おつまみ。……なんて。

でも、
そんなくだらないことで笑える時間が、
私はけっこう好きだったりする。

そして、
いろんな話をした。
一つの話が終われば、
そこからまた別の話へ。
次から次へと話題が飛んでいく。

どれだけ喋ることがあるのだろう、
と思うほど。
それでも話は尽きなかった。
あなたは何度も延長してくださった。
ありがとう。

お酒がなくなっても、
まだ話をしていた。

笑って、
喋って、
また笑って。

何か特別なことをしているわけではないのに、
あなたといると、
時間だけが少し速く流れていく。

それなのに、
心の中には、
一つひとつの瞬間がゆっくり積もっていく。
そんな不思議な時間だった。

そして最後。
あなたに、ぎゅっと抱きしめられた。
あなたの優しさと、
思いやりと、
あたたかなオーラに包まれながら。

もう少し、
このままでいたいと思った。
離れることを惜しむほどに、
あなたのぬくもりが心地よかった。

外はもう、
少し肌寒い季節になってきた。
けれど、
私たちのいる場所だけは、
やわらかな温度に包まれていた。

まるで、
秋の夕暮れの色に染まりながら、
二人だけの時間が
ゆっくり流れているようだった。

寒い季節へ向かっているのに、
あなたに抱かれていると、
心の中だけは不思議なくらいあたたかい。

そしてそのぬくもりは、
あなたと離れたあとも、
しばらく私の中に残っていた。

逢えた嬉しさも。
一緒に笑った時間も。
最後に抱きしめたぬくもりも。
きっと今日という日の余韻になって、
今夜の私をそっと包んでくれるのだと思う。

そんな時間を、
今日もありがとう。
また、
あなたの笑顔に逢える日を待っていますね。

今日はなんだか、
午後からずっと
あなたがそばにいてくれたような気がする。

外に出ると、
街にはもう夜の帷が下りていた。

秋風に
ほどけぬように
抱きしめて
あなたの温度
胸に連れゆく

— Morimura