少し早めに待機所へ着いた。

少し早めのお昼ご飯。
おにぎりを食べ終えると、
私はせっせと日記を書いていた。

朝から心の中に生まれたものが、
まだたくさん残っている。

ひとつ書いて、またひとつ。
次は鰻の寄り道を書こう。
そう思っていたはずなのに——
だんだん、まぶたが重くなってきた。

少しだけ。
そんなつもりだったのだろう。
けれど気がつけば、
私はすっかり眠りの中にいた。

目を覚ましたのは、メールの着信音。
時刻は13時20分。
お仕事が入った。
時計を見てみれば、
どうやら1時間と少し眠っていたらしい。

起きたばかりの頭は、まだぼんやり。
夢と現実の境目を、
頭だけがふわふわ漂っている。

けれど外へ出ると、冷たい風が頬に触れた。

すうっ。

その瞬間、頭の中に、
一本の風の通り道ができたようだった。
ぼんやりしていたものが
少しずつほどけていく。

ああ、気持ちいい。

風さん。
じゃあ、ちょっと行ってくるわ。
また終わったらここへ戻ってくるから。
そのときは、一緒に帰りましょう。

そう心の中で声をかけて、
私はホテルへ入った。

そして——本日、最初のドアが開きました。
ドアの向こうで待っていてくださったのは、
とてもにこやかな笑顔のあなた。

「はじめまして」そう言うと、
「こんにちは」また、あの笑顔。

初めてお逢いした人なのに。

その笑顔を見ているだけで、
なぜだかこちらの心まで温かくなっていく。

あなたの気さくなお人柄もあったのだろう。

初対面という小さな壁は、
いつの間にかどこかへ消えていた。

二人の間に流れていたものを色にするなら、
何色だろう。
黄色?
ううん。
そんなに強くない。
さんさんと照りつける太陽ではなく、
もっと柔らかな陽射し。

白。

でも、ただの白ではない。
ほんの少しだけピンクを溶かしたような白。
春の花びらを一枚だけ透かして、
その向こうから光を見たような色。
そんな光が、
二人の間に流れているような気がした。

そして私は、あなたに触れた。
あなたは本当に優しい人。
自分のことより、
こちらへの気配りばかり。

そんなに私のことを気にしていたら、
あなた自身が
ゆっくり感じている暇がないんじゃない?
そう思ってしまうほどだった。

だから、「気持ちいい」
そう言ってくださった、
その一言がとても嬉しかった。

ああ、よかった。
ちゃんと届いている。

そう思えたから。

そして今度は、
私の方があなたの優しさと温かさに
包まれていった。

そよ風の中。
柔らかな陽射しの中。

ゆらり。
ゆらり。

まるでハンモックに身体を預けて、
何も考えず揺られているような。

そのまま眠ってしまいそうなほど、
穏やかな夢心地。

ありがとう、あなた。

ただね。ひとつだけ、
心残りがある。——もう一度。
そんな気持ち。
だから、また待っていますね。

やがて二人でホテルを出た。
並んで歩きながら、
またいろいろな話をした。

ほんの少し前まで
「はじめまして」だった人と、
こうして自然に話しながら歩いている。

人と人との距離というものは、不思議だ。
時間の長さではないのかもしれない。
「今日はゆっくり休んでね」
「じゃあね。ありがとう」
そう言って別れた。

ひとりになって歩き始めても、
あなたの優しさと温もりは、
まだ胸の中に残っていた。

そして、そこにはあの色も。
ほんのりピンクを帯びた、
柔らかな白い陽射し。

そこへ風が吹いた。
あ。風さん。
戻ってきたよ。
約束どおり、一緒に帰ろう。

歩きながら、ふと思った。
ねえ、風さん。
あなたは見えないけれど——あなたは何色?

風さんが答えた。
「風は、あなたの心のままの色だよ」

そっか。

じゃあ今の私には、
あなたは何色に見えるんだろう。
私は少しだけ空を見た。
そして分かった。
今日の風さんは——空色。

ただの青ではない。
光をたっぷり含んだ、
きらきらと輝くような空色。

あなたからもらった
柔らかなピンク色の光を胸に残したまま、
私は空色の風さんと一緒に、
また歩き始める。

今日という一日は、まだ途中。
次のドアが何色なのかは、まだ知らない。
でも今は、胸の中に残った温もりと、
隣を歩く空色の風があれば、それでいい。

白き陽に
ひとひら桃を
溶かしたら
空色の風
胸を吹きゆく

— Morimura