朝には、ときどき
何も書かれていない
一枚の紙のような時間がある。

予定がない、ということではない。
何もない、ということでもない。

ただ、まだ色がついていない。

誰に逢うのか。
どんな言葉を交わすのか。
どんな景色の前で足を止めるのか。

それを、朝の私はまだ知らない。

だからこそ、白い。

白は、空っぽの色ではない。
赤にもなれる。
群青にもなれる。

淡い金色にも、
少し寂しい灰色にもなれる。
すべての色を受け入れるために、
まだ何色にもならずにいる色。

そう思えば、
白い一日はずいぶん贅沢だ。

私はこれまで、
予定の詰まった一日を
「充実」と呼んできたのかもしれない。

けれど最近は、
何も決まっていない余白にも
小さな愉しみを感じるようになった。

この白は、
今日、何色になるのだろう。

そんなことを思いながら
朝の窓の向こうを眺める。

昨日までの物語は、
もう昨日のもの。

うれしかったことも、
少し胸に残ったことも、
言葉にしてしまえば
どれも静かに過去へと沈んでゆく。

けれど不思議なことに、
全部が消えてしまうわけではない。

昨日の月も、
昨日の風も、
誰かの声も、
自分の中のどこかに
薄い色となって残っている。

そして今日という白の上に、
気づかないほど淡く重なってゆく。

だから人は、
毎朝まっさらになるわけではないのだろう。

昨日を抱いたまま、
それでもまた
新しい白を受け取る。

それでいい。

今日の終わり、
この一日を振り返ったとき、

「ああ、今日はこんな色だったのね」

そう思えればいい。

どんな色でもいい。

鮮やかでなくてもいい。
誰かに見せるための色でなくてもいい。

私だけがわかる色なら、
それでいい。

朝にはまだ、
その色の名前さえない。

だから私は、
少し愉しみにしている。

白い予定を胸に抱きながら、
今日という一日が
自分から色を見せてくれる、その瞬間を。

そして夜になったら、
空を見上げよう。

そこに月があれば、
今日という一日の色を
そっと照らしてもらえばいい。

まだ白い朝。
まだ名もなき今日。

さて――

今日は、
どんな色に染まるのだろう。

白き朝
まだ名も知らぬ
色を待つ
月に逢うころ
今日を知るらむ

— Morimura