雨に濡れた道を、
キュッ、キュッ、キュッ、キュッと歩く。

馬車道に入ると、
風さんがふいに正面からやってきた。

おはようとも言わず、
すうっと心をさらっていく。

その瞬間、目の前の道が
今だけのものではなくなった。

勝海舟。坂本龍馬。桂小五郎。郁松。
教科書の中の名前ではなく、
その時代を本当に生きた人たちの息づかいが、
雨に濡れた路面の奥から
立ち上がってくるようだった。

私が惹かれるのは、
歴史の年号や出来事だけではない。

そこにいた人が、何を守ろうとしたのか。
誰を愛し、何を怖れ、どんな覚悟で
その瞬間を生きたのか。

郁松が桂小五郎を守ったという記憶も、
私の中ではただの逸話ではない。

命を懸けてでも守りたい人がいる。
その一瞬の心が、
やがて大きな時代の流れにつながっていく。

そう思うと、
歴史は急に遠いものではなくなる。

そして今日、少し道を間違えたと思った先で、 昨日気になっていた日本大通りの説明板に
出会った。

旧外国人居留地と日本人街を分け、
防火帯の役割も担った道。

またひとつ、今見えている景色の奥に、
時代の層が重なった。

間違えたと思った道が、
昨日の宿題へとつながっていた。

なんだか可笑しくて、少しうれしかった。

私はやっぱり、歴史を覚えたいのではない。

その土地に立ち、
風を感じながら、
そこに生きた人の心を魅つめたいのだと思う。

そしてしばらくすると、
虫の声がだんだん大きく聞こえてきた。
夢から覚める合図のように。

ほんの15分ほどの、時代の旅。
けれどその15分は、
今朝の道を少し違うものに魅せてくれた。

目の前の道の奥には、
いつだって、
まだ魅えていない時間が流れている。