振り返れば、今朝もずいぶん遠くまで歩いた。

けれど、歩いた距離よりも、
心の方がもっと遠くへ
旅をしていたように思う。

雨に濡れた餅おじさんとなぞちゃんを魅つめ、
まだ暗い空に群青の名残を探し、
馬車道では時代の風にさらわれた。

桂小五郎と郁松。
教科書の文字ではなく、
その時代を生きた人の心に触れたかった。

海へ出れば、
群青は少しずつ白へほどけていった。

水面はただ姿を映すのではなく、
まだ自分でも気づいていない心まで
映してくれるものなのかもしれない。

そして真っ白な世界の中に、
ターコイズブルーと黄色が一色ずつ置かれた。

何もないと思っていた余白は、
実は、何でも迎え入れられる場所だった。

そこから地上へ戻ってきた私は、
もう昨日までの私と
まったく同じではないのだと思う。

何か大きく変わったわけではない。

けれど、

少しだけゆっくり魅ることを覚えた。
少しだけ待つことを覚えた。
少しだけ、余白を残したまま
歩くことを覚えた。

今日で、毎朝魅てきたこの風景とは、
しばらく離れる。

だからこそ、最後まで急ぎたくなかった。

雨の匂いも、
風の音も、
濡れた路面の光も、
水面の揺らぎも、

ひとつずつ心の中へ入れておきたかった。

水平線の向こうに何があるのか。

結局、答えはまだわからない。

でも今は、それでいい。

だって、わからないからこそ、また歩ける。

まだ魅ぬ景色を迎え入れる場所を残したまま、
私は今日も、自分の国を歩いていく。

そして、またいつかここへ戻ってきたとき。
同じ風景を魅ても、
きっと今とは違う私が立っている。

それでいい。

風景は変わらなくても、
心はいつも旅を続けているのだから。

「水平線の向こうへ」

雨しずく
緑を濡らし
朝まだき
群青の空
白へほどけぬ

道をゆき
時代の風に
心飛び
人の想ひを
胸にたどりぬ

海に立ち
水面に問へば
揺らぎつつ
知らぬわが心
そっと返しぬ

白き空
何もなきごと
広がれど
そこには未来の
色待ちてあり

青ひとつ
黄ひとつ置きて
わが国の
朝は静かに
ひらかれてゆく

振り返る
景色はすべて
胸のうち
風となり光となり
明日へ流れむ

反歌

水平線
その向こうには
まだ魅ぬ日
余白を抱き
われ歩みゆく

— Morimura