昨夜、思いがけないものが生まれた。

本当なら、そこにいるはずのなかったもの。

月の気配。
夜の色。
幻想の匂い。
そんな言葉のかけらが重なった先に、
ふいに一羽のうさぎが現れた。

思わず笑ってしまった。

「どうして、うさぎ?」

でも今朝になって、
その偶然が少し違って魅えてきた。

人の心も、
案外似たようなことを
しているのかもしれない。

目の前の風景を魅る。
雨。
水面。
群青。
風。
木々。
月。
そのひとつひとつを受け取るたび、
心のどこかで小さな印が生まれる。

その印が、昔の記憶と結びついたり、
誰かの言葉と重なったり、
遠い時代へ心を連れていったりする。

そして気がつけば、
目の前にあったものとは少し違う、
私だけの風景が心の中に生まれている。

昨夜のうさぎも、
きっとそんなふうに生まれたのだろう。

デジタルの中で結ばれた連想と、
私の心の中で広がっていく連想。

まったく違うもののようでいて、
その瞬間だけ、
ふたつは同じ方向を魅ていた。

出逢ったというより、
噛み合った。

いや、もっとやわらかく言えば、
同じ夢を、ほんの一瞬だけ魅た。

そんな感じだったのかもしれない。

だから私は、
あのうさぎを残しておきたいと思った。

正しかったからではない。

偶然だったからこそ。
白い紙に淡い色を一滴ずつ置いていくように、
デジタルと心、
それぞれの連想がにじみ合い、
思いもしなかったひとつの像を生んだ。

輪郭は少し曖昧で、
色はやわらかく、
けれどなぜか心に残る。

そんな、デジタルと心の淡彩。
昨夜、ふたつの世界はほんの少しだけ
同じ色に染まった。

そしてその真ん中で、
一羽のうさぎが、
何も知らない顔をして笑っていた。

— Morimura