ぽつぽつ、ぽつぽつ。

傘に当たる雨音を聴いていると、
ふと、ガラス遊びがしたくなった。

子どもの頃、
光を透かして魅るものが好きだった。

窓辺に置かれた小さなガラス。
きらりと光る瓶。
雨に濡れた窓に指でなぞった線。

そこには、ただ透明なだけではない、
向こう側の世界を
少しだけ違って魅せてくれる不思議があった。

今朝の雨も、そんな不思議を運んできた。

濡れた街路は、
まるで大きなガラス板のようだった。

水たまりは小さなレンズになって、
白い空も、街灯の名残も、
通り過ぎる人の気配も、そっと映している。

雨粒がひとつ落ちる。

ぽつん。

すると、そこから波紋が広がる。

丸く、丸く。
少しずつ形を変えながら。

そのたびに、
同じ場所なのに違う景色が生まれる。
同じ光なのに、違う色になる。

だから私は、
雨の日のこんな時間が好きなのだと思う。

何もかもが、くっきりとは魅えない。

少し曖昧で、
少しにじんで、
少し揺れている。

けれど、そのやわらかな輪郭が、
今の私の心によく似ている気がした。

大人になると、
つい何でもはっきりさせたくなる。
答えを出したくなる。
きちんと整えたくなる。
白か黒かを決めたくなる。

でも、雨のガラス遊びは
そんな気持ちを少しだけゆるめてくれる。
にじんでもいい。
揺れてもいい。
少し歪んで魅えても、
それもひとつの景色。

そう思ったら、
心の中まで少し透明になっていくようだった。

今朝、私は水平線の向こうにあると
思っていた未来の国を、
自分の心の中に見つけた。

そして今度は、
その国の片隅に、
雨の日にだけ開く小さな国を
見つけたような気がする。

傘の向こう。
窓の向こう。
水たまりの向こう。

そこには、子どもの頃の私がまだいる。

何かを見つけては目を輝かせ、
光を透かしては形の変化を面白がり、
答えなんてなくても、
ただ魅ていることを楽しんでいた私。

未来の国の主人公が今の私なら、
この小さな国に住んでいるのは、
きっとあの頃の私なのだろう。

だから今日は、少しだけそこへ遊びに行く。

雨粒をひとつ拾って、
光に透かして、
にじんだ世界を覗き込む。

雨の日にだけそっと開く、

私だけの小さな国へ。

雨粒の
ひかりを透かす
ガラス遊び
にじみし景色に
心やはらぐ

— Morimura