雨粒の
ひとつひとつが
輪を描き
過ぎし時まで
水面に還る
雨の帰り道。
足もとに、大きな水たまりがあった。
ぽつん。 ぽつん。
雨粒が落ちるたび、丸い波紋が生まれていく。
ひとつの輪が消えきらないうちに、
また新しい輪が重なる。
今朝までの私なら、
ただ「きれいだな」と魅ていたかもしれない。
けれど今日は、その波紋が少し違って魅えた。
今ここを歩く人の時間。
この街をかつて歩いた人の時間。
もう名前さえ残っていない誰かの時間。
それぞれの生きた一瞬が、
雨粒のようにこの街へ落ち、
輪を広げ、
別の輪と重なりながら、
今という時間へつながっている。
歴史は、
年表の上だけを流れているのではない。
道にも。
建物にも。
水面にも。
そして、その土地を歩く人の心にも。
雨がまたひと粒落ちた。
新しい波紋が、
古い波紋の上へ静かに重なっていく。
私の今日もまた、そのひとつなのだと思った。
ほんの一瞬。
けれど確かに、
この街の時間の中に生まれた、小さな輪。
雨の日の水面は、
そんなことまで教えてくれる。
— Morimura
余情の小径 |一枚だけの余情 雨、時を重ねて
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