今朝、
ふいに島崎藤村の『初恋』を思い出した。
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき――
どうして今、この詩だったのだろう。
私が『初恋』を好きになったのは、
小学6年生の頃。
転校したばかりの教室で、
先生がこの詩を教えてくれた。
「まだあげ初めし前髪の」
その意味を説明するとき、
先生は私を見て、
「ちょうど森村さんみたいな前髪のことだよ」
そんなふうに言った。
長い髪を二つに結び、
前髪を下ろしていた十一歳の私。
その瞬間、遠い昔の詩の中にいる少女が、
ほんの少しだけ自分になったような気がした。
そして、もうひとつ。
藤村の詩には林檎が出てくる。
白い手から差し出される、薄紅の林檎。
その実に、
初めて誰かを恋しく思う心が重ねられている。
何十年も経った今朝。
なぜか私の胸の中にも、
林檎がひとつあるような気がした。
まだ青くもなく、真っ赤でもない。
ほんのりと薄紅に色づいた、小さな林檎。
今日、逢える人のことを思うたびに、
少しずつ色を濃くしていく。
何を話そう。
どんな顔で逢おう。
今日はどんな時間になるのだろう。
そんなことを考えている自分が、
なんだか少し可笑しくて、
そして少し愛おしい。
私は「初恋」というものを、
ほんとうに知っているのだろうか。
それは今も分からない。
けれど、誰かに逢えることを待ち遠しく思い、
その人を思っただけで心がふっと華やぐ。
そんな瞬間だけなら、
今朝の私は、十一歳のあの日より少しだけ
『初恋』の少女に
近づいているのかもしれない。
だから今日は、
胸の中に林檎をひとつ忍ばせておこう。
夕暮れになり、あなたに逢うころ。
この薄紅の実は、
どんな色になっているのだろう。
そして――あなたは、
その林檎に気づくだろうか。
逢いたさを
言葉にすれば
照れるから
今日という日を
ずっと待ってた
— Morimura
特別編|初恋🍎
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