詩がなかったのではない。
言葉が、
生まれなかったのでもない。
ただ、
物語が多すぎた。
空を見上げれば、
ひとつの色から
またひとつの記憶がこぼれた。
風に触れれば、
遠い日の声が蘇った。
街を歩けば、
知らなかった扉が開き、
その向こうから
また別の時間が手を振った。
だから詩は、
黙っていた。
昨日も。
今日も。
自分の番が来るまで、
少し後ろに立って、
物語たちが通り過ぎるのを
じっと待っていた。
月が先。
木星が先。
馬車道が先。
明治が先。
二十歳の記憶が先。
海が先。
空が先。
そして、
胸の中に忍ばせた
薄紅の林檎まで先に行ってしまった。
それでも詩は、
拗ねなかった。
「いいよ」
そう言って、
静かに待っていた。
そして今。
ようやく、
私が振り返る。
そこには、
二日分の言葉を抱えた詩が
ちゃんと立っていた。
ああ。詩を落としてきたと思っていたけれど、
違った。
詩はずっと、
私の後ろを歩いていたのだ。
昨日から今日へ。
今日から、
また次の朝へ。
言葉になる順番を、
待ちながら。
— Morimura
独立詩|昨日と今日に落とした詩✨
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