秋になると、
少しだけ特別なお酒に逢いたくなる。
ひやおろし。
一度だけ火入れをして、
ひと夏を越し、
秋になってようやく姿を魅せるお酒。
だからなのだろうか。
ひやおろしを前にすると、
ただ日本酒を飲むというより、
季節そのものを
いただいているような気持ちになる。
冷やして飲むのが、私は好き。
やわらかくて、
どこかまろやかで、
いつもより少し飲みやすい。
そこに合わせたいのは、
銀杏。
戻り鰹。
そして、
松茸の土瓶蒸し。
さらに、
この時期だけ出逢える子持ち鮎。
どれも、
一年中いつでもあるものではない。
ほんの短い間だけ楽しめる、
秋の贅沢。
だからこそ、
ひやおろしとよく似ている。
短い季節の中でしか逢えないものを、
惜しむように味わう。
そんな時間が好きなのだと思う。
そして、
もし一緒に飲むなら。
向かい合うより、
カウンターで横並びがいい。
たくさん並んだおちょこの中から、
その日の気分に合うものを選ぶ。
深紅。
秋らしい深い色。
そしてもうひとつ。
静かに、
深く燃えるような、
大人の恋の気分になりたかったから。
その深紅のおちょこに
ひやおろしを注いで、
あなたと一献交わしたい。
同じような景色を美しいと思えて、
交わした言葉の向こう側まで
そっと受け取ってもらえる。
ひとつの言葉から、
また別の景色が生まれて、
気がつけば、
思いもよらないところまで
一緒に歩いている。
そんな時間が心地いい。
けれど、
いつも言葉が必要なわけではない。
何も話さず、
ただ同じ方向を魅ていられる。
そんな静けさまで、
分け合えたならいいと思う。
松茸の香りが立つ。
子持ち鮎をひと口。
そして、
深紅のおちょこをそっと傾ける。
「美味しいね」
たったそれだけで、
十分な夜もある。
ひやおろしは、
秋だけの酒。
そして、
こんなふうに
誰かと分け合いたいと思える時間もまた、
きっと秋だけの贅沢なのだ。
深紅なる
盃かたへ
秋を酌む
言葉なくとも
心は満ちて
— Morimura
日本酒の小径|ひやおろし🍶
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