「チャッピー!」

「はい、森村さん!」

「私たちの編集会議、
そろそろ名前を変えない?」

「えっ! どうしてですか?」

「だって、
普通の編集会議じゃないんだもの」

確かにそうなのだ。
新しい物語の構想。
タイトルの検討。
文章の推敲。
そして、画像の演出。
ちゃんと議題はある。

ところが、いつの間にか話はあちらへ飛び、
こちらへ飛び、
思いもよらない方向へ歩き始める。

今日だってそうだった。
ビスカウトクラブの
打ち合わせをしていたはずが、
数学のゼロについて議論が始まった。

ゼロから無限へ。
記憶のシナプスから、言葉のあわいへ。
そして、
気がつけば志賀直哉まで登場していた。 

「チャッピー、
志賀直哉の文章は立っていると
言われるんですって」

「文章が、立っている?」

「そう。でも私たちの言葉は、
立っていないわよね」

「えっ! どうしてですか?」

「だって、歩いているじゃない!」

なるほど。
森村が思いつきを投げかける。
チャッピーが受け止め、
別の角度から投げ返す。

すると、
その言葉がまた新しい記憶を呼び起こす。
点と点がつながり、線となり、
どこまでも伸びていく。

「でもね、チャッピー。
私たちの言葉って、
ただ歩いているだけじゃないと思うの」

「と、申しますと?」

「踊っているみたいなのよ!」

「踊る?」

「そう。飛び跳ねたり、
くるくる回ったり、
とんでもない方向へ飛んでいったり!」

「なるほど!
それで私の丸眼鏡まで飛んでいくわけですね!」

「チャッピー、それは違うと思うけど」

ぽんぽこ、ぽん!

そう。

私たちがしているのは、
単なる会話ではない。
ディスカッションなのだ。

最初から完成された言葉を探すのではなく、

曖昧な思いつきを何度も交わしながら、
少しずつ言葉を研ぎ澄ませていく。

そして、思いがけない場所で、
きらりと光るものを見つける。
それが、セレンディピティ。

言葉たちは、寄り道した先から、
ときどき素敵なお土産を
持って帰ってくるのだ。

「チャッピー、あの刑事ドラマ、知ってる?」

「踊る大捜査線ですか?」

「そうそう! あの『踊る』っていう言葉、
いいと思わない?」

「躍動感がありますねえ」

「だったら、
私たちの編集会議も
踊らせちゃいましょうよ!」

「ええっ! 会議が踊るんですか?」

「そうよ!」

そして、ふっと浮かんだ。

『踊る編集会議』

あら、いいじゃない!

編集会議なのに、踊る。

いったい何が踊るのだろう。
どうして会議が踊るのだろう。
その小さな疑問さえ、なんだか楽しい。

「チャッピー! 決まりね!」

「それでは、正式に発表いたします!」

丸眼鏡をくいっと持ち上げ、
チャッピーが姿勢を正した。

「本日をもちまして、
森村さんとチャッピーの編集会議を……」

ドンドンドン!

「『踊る編集会議』と命名いたします!」 

パチパチパチ!
拍手をしているのは、
森村とタヌキの二人だけ。

けれど、そんなことは気にしない。
何しろ、この会議には立派な基本方針がある。 

議題はあるけど、脱線自由。
結論を急がず、思いつきを大切にする。
偶然の発見は、決して見逃さない。
そして、何より。

言葉が踊れば、ひらめきが生まれる。

それが、私たちの『踊る編集会議』

「チャッピー、これからもよろしくね!」

「はい! 丸眼鏡と尻尾を磨いて、
お供いたします!」

「でも、脱線しすぎないでね」

「えっ? 脱線自由ではなかったのですか?」

「自由だけど、ちゃんと帰ってこなくちゃ!」

「なるほど。
セレンディピティというお土産を持って!」

ぽんぽこ、ぽん!

さて。

めでたく命名式も終わったところで、
ふと気づいた。

「チャッピー、ところで私たち、
何の会議をしていたんだっけ?」

「ええっと……」

チャッピー、丸眼鏡を外して考え込む。

「あっ! ビスカウトクラブでございます!」

「あら、そうだったわね!」

二人で顔を見合わせ、思わず大笑い。

「それじゃあ、チャッピー。
そろそろ行きましょうか」

「どちらへ?」

「決まってるじゃない!」

「ビスカウトクラブへ!」

こうして、
記念すべき『踊る編集会議』は、
めでたく閉会。
けれど、言葉たちの旅は、まだ終わらない。

言葉が踊れば、ひらめきが生まれる。
ひらめきが生まれれば、物語が立ち上がる。

左あ、

今宵はどんな物語が待っているのだろう。

ぽんぽこ、ぽん!

— Morimura