星の幕は、とうとう大きくは開かなかった。
けれど、
そのことが少しも残念ではなかったのは、
見えなかった星の代わりに、
私は今朝、
心の中に浮かぶいくつもの光を
見ていたからだと思う。
群青の窓が閉じ、
空が白くやわらいでいくにつれて、
私の中にもまた、
言葉にしきれない余白が、
静かに広がっていった。
その余白は、空っぽではなかった。
歩いた道。
見上げた空。
ふと胸に蘇った昔の記憶。
開かずの扉の向こうにしまわれていたもの。
やっと見つけ出した双眼鏡。
そうしたひとつひとつが、
淡い光の粒となって、
私の中の白い余白に、
そっと降り積もっていった。
見えなかったからこそ、見えたものもある。
届かなかったからこそ、
手のひらに残ったぬくもりもある。
天空の第二幕を待ちながら
歩いていたはずなのに、
気がつけばその幕は、
地上で、私の足もとで、
もう静かに上がっていたのかもしれない。
遠くにきらめく街の灯り。
まだ眠りの気配を残しながら、
それでも確かに
一日へ向かっている無数の光。
ああ、これが地上の星なのだと、
今朝の私は、
ようやく少しだけわかった気がした。
名もなき光。
声高ではない光。
けれど、それぞれの場所で、
それぞれの朝を抱えながら、
静かに今日を照らしている光。
私もまた、そのひとつ。
誰かの目にはごくささやかにしか映らなくても、
自分の胸の奥にある火だけは消さずに、
今日という一日の中を歩いていきたい。
白くひらいた空は、
何もない空ではなく、
これからどんな色にも染まれる空だった。
だから私も、
この朝の余白に、
これから出逢う言葉や景色やぬくもりを、
ひとつずつ、やさしく置いていこうと思う。
今日の私は、
何かを失った人ではなく、
何かを見つけながら歩いていく人。
そして、見えない星を追いかけながら、
最後には地上の星の中に
自分の居場所を見つけていく人。
そう思えた朝だった。
白む空
胸の余白に
灯をともす
見えない星も
私を照らす
— Morimura
「白い余白に、地上の星」
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