「ヒカリン! ヒカリン!」

「なあに、モリリン?」

「森村さんが、
とうとう外へ飛び出しちゃった!」

「ええっ! こんな時間に?」

午前3時40分。
まだ街が深い眠りについている頃。

「だって、星が見えないんだもの」

森村さんは、
もう何度目になるかわからない夜空を
見上げていた。

午前1時10分に目覚めてから、
何度もベランダの窓を開けた。
いつもなら輝いている
シリウス、プロキオン、ベテルギウス。
冬の大三角。
そして、オリオンの帯と剣。
ところが、今朝はどこにも見当たらない。

「森村さ〜ん!」
丸眼鏡のチャッピーが、
息を切らして追いついてきた。

「星が見えないからって、
街中を探し回るんですか?」

「広い空を見渡したら、
どこかにいるかもしれないでしょう?」

「なるほど! では森村探検隊、
星空捜索開始!」

みんなで空を見上げた。

一つ目の建物の切れ間。
星はない。

二つ目の交差点。
やっぱりない。

吉田橋の真ん中で、ぐるりと一周。

「あら、残念!」

「でも森村さん、今朝の雲、
なんだか美味しそうですねえ」

「えっ?」

「ほら、あのもくもくした雲。
まるでピザのチーズじゃありません?」

「あら、本当!」

「今朝の空はクアトロ・フォルマッジです!」

「ふふっ。私の好きな
マルゲリータじゃなくて、四種のチーズね」

「ただし、星のトッピングはありません!」

「あははは!」

そのとき、風さんがふわりと現れた。

「今朝は雲が何枚も重なっていますね。
星たちは羽衣の向こうでお休みかしら」

「だったら星空探検は空振りね」

とヒカリン。

「いいえ! 四種のチーズを発見しました!」

とチャッピー。

「食べられないけどね!」

一同、大笑い。
 さて、歩きながら
モバイルICOCAにチャージしようとすると
、なぜかできない。

「あれ? 午前4時から?」

「こんな時間にチャージする人、
珍しいですよ!」

「知らなかったもの。新発見ね!」

4時を過ぎ、無事にチャージ完了。

すると突然、森村さんが言い出した。

「柏餅が食べたい!」

「ええっ! 星探しから柏餅探しへ!?」

目指すはセブンイレブン。
ところが一軒目も二軒目も、
草餅はあれど柏餅はない。

「草餅じゃダメなの?」

「今日は真っ白なお餅と、
しっとりしたこしあんなの!」

「では、調達仕様書を作成しましょう!」

とチャッピー。

「色は白。餡はこしあん。代替品不可!」

「まあ、今朝は見積書を作ったばかりなのに!」

「あははは!」

しかも、今度は肝心のセブンイレブンが
見つからない。

「いつもあちこちにあるのに、
探すとないのよねえ」

「ファミリーマートならありますよ!」

そのうち森村さんは、
コンビニの看板を眺め始めた。

「遠くからでも色でお店がわかるでしょう?
コーポレートカラーって大切ね」

「柏餅にも厳格な色指定があるんですね!」

「チャッピーったら!」

ようやく見つけた三軒目。

やっぱり柏餅はない。

「本音を言えば、三色団子が食べたいのよね」

「えええっ! 柏餅捜索は何だったんですか!」

実は、昨日見た月が忘れられなかったのだ。

関西の月見団子は、

白いお餅にこしあんを巻いている。
柏餅は、その反対に中へ包む。

「なるほど。お月様の余韻が
食欲になったんですね」
と風さん。

「そうなのよ!」

結局、
手に入れたのはシャインマスカット大福と
ホットコーヒー。

「でも、フルーツ大福はお餅が薄いのよねえ」

「森村さん、まだ未練がある!」

ふふふっ。

そんな寄り道の途中、
懐かしい蕎麦屋の前も通った。

「朝6時10分頃に並んで、
一番に入っていた頃が懐かしいわ」

「今日は蕎麦の物語も書いたでしょう?」

「そうね。なんだか不思議な朝」
星は見つからず、柏餅も見つからず。
けれど、思いがけない発見や
懐かしい記憶には出逢えた。

「さて、森村さん。次はどこへ?」

チャッピーが尋ねると、
森村さんはただ、にっこり。

「あら、何か企んでいる顔!」

「ふふっ。どうかしら?」

どうやら今朝の探検は、

まだ終わりそうにない。
森村探検隊、後編へ続く。