森村探検隊星を探して、魔法にかかる【後編】〜真紅のゼロと、女帝の馬車〜
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「ねえ、チャッピー。森村さん、
何か企んでない?」
モリリンが小声で尋ねた。
「ふふっ。森村さんのことですから、
次の目的地は予測不能ですよ!」
ところが、森村さんの足が止まった。
「あら、関内ホール!」
目の前には、真っ赤な巨大モニュメント。
「わあ! 大きなリーフパイ!」
「モリリン、食べちゃダメですよ!」
「だって美味しそうなんだもの!」
森村さんは、
その赤い彫刻をじっと魅つめていた。
「なんだか、大きなゼロに見えるわね」
「ゼロ?」
「そう。私もいつもゼロの旅人なのよ」
「えっ? 森村さん、またどこかへ旅立つの?」
「ふふっ。そうかもしれないわ」
すると、
スピーカービルから軽快な音楽が流れてきた。
クラブ馬車道のロゴ。
そして、ハロウィン。
「ねえ、みんな。かぼちゃの馬車が見えない?」
「えええっ!」
風さんがふわりと現れた。
「今朝は馬車道に
魔法がかかっているようですね」
「シンデレラだ!」とヒカリン。
ところが森村さんは、目を輝かせて言った。
「私、ロシアへ行ってくるわ!」
「ロ、ロシア!?」
「ええ。女帝エカテリーナに逢いに!」
「あらまあ!
魔法の馬車が国際線になっちゃった!」
チャッピーが丸眼鏡を押し上げた。
ふふふっ。
森村さんの心は、
遠いサンクトペテルブルクへ。
華麗な宮廷。
黄金の馬車。
そして、若き日のエカテリーナ。
けれど、森村さんが憧れていたのは、
王冠を戴いた女帝だけではなかった。
孤独の中で学び、努力を重ね、
「いつか、きっと」と
未来を信じ続けた女性。
「ねえ、チャッピー」
「はい?」
「私、転ぶことは怖くないの」
「えっ?」
「転んだら起きればいい。
引き下がったら、
また前に進めばいいでしょう?」
チャッピーは、ちょっと真面目な顔になった。
「なるほど。だから森村さんは、
いつもゼロから出発できるんですね」
「そうなの。今日もまた、ゼロの旅人よ」
「でも森村さん!」
「なあに?」
「ロシアまで行くなら、
柏餅のお土産をお願いします!」
「もう! チャッピーったら!」
一同、大笑い。
やがて、森村さんは初めての水辺の一本道へ。
小さな灯りが続き、
水面には街の光が揺れている。
その先には、
エメラルド色の王冠を戴くクイーンの塔。
「わあ! なんて綺麗なの!」
「森村さん、こんな道があったんですね!」
「名付けて、クイーンの小径!」
「素敵!」とモリリン。
「この小径の向こうにも、
エカテリーナがいるような気がするの」
風さんが優しく微笑んだ。
「森村さんの心には、
遠い女帝の灯火がともっているのですね」
そして海辺に出ると、
空には淡い桃色の光。
水面には赤や金色の灯りが揺れていた。
遠くの橋の上には、一本のピンクの光の帯。
「わあ! 天の川みたい!」
「でも、あれは橋ですよ!」とヒカリン。
「そうね。いつか、
自分の力で渡りたい橋なの」
「森村さん、どこまで行くんですか?」
「いつかの私に逢いに!」
チャッピーは胸を張った。
「では、森村探検隊もお供しましょう!」
「はーい!」
さて、その後もキング、クイーン、ジャック、
そしてエースの塔。
森村さんの足は、
自然とお馴染みの場所へ向かっていく。
「もう三塔の地図が頭に入っているんですね!」
「いいえ!」と風さん。
「きっと、心が道を覚えているのでしょう」
そんな森村さんには、
実はもう一つ秘密の計画があった。
目指すは勝烈庵。
「もしかして、朝ごはん?」
「ふふっ。違うのよ」
「じゃあ、何?」
「棟方志功のお皿を、あと二枚欲しいの!」
「えええっ!」
どうやら、早朝から順番待ちの発券機が
使えるかもしれないと考えたらしい。
「森村さん、なかなかの策士ですねえ!」
ところが……。
「あら、機械がない!」
「残念! 作戦失敗!」
「まあ、もう二枚あるからいいわ」
すると森村さんが、にっこり笑った。
「このお皿、朝の目玉焼きにぴったりなのよ」
「仏様のお皿でしょう?」
「そう。目玉焼きを食べ終わったら、
仏様が顔を覗かせるの」
「わあ! 素敵!」
「でも二枚しかないんでしょう?」
「そうね。あなたたち三人でじゃんけんね!」
「えええっ!」
チャッピーは慌てて手を差し出した。
「じゃんけん、ぽん!」
「あっ! チャッピーの負け!」
「そんなあ〜!」
またまた大笑い。
気づけば、時計は午前6時04分。
3時40分に歩き始めてから、
ずいぶん長い旅になった。
空は群青から白へと還り、
星の姿はとうとう見えなかった。
でも、森村さんの心には、
ピンクの天の川が今も流れている。
「ねえ、森村さん」
「なあに、チャッピー?」
「今日の探検、何を見つけました?」
「そうねえ……」森村さんは空を見上げた。
「心の余白が、いっぱいできたことかしら」
「余白?」
「そう。今日という真っ白な余白に、
どんな幸せが舞い降りるのか楽しみなの」
モリリンが微笑んだ。
「森村さん、今朝も素敵な旅だったね!」
「うん!」とヒカリン。
するとチャッピーが、突然叫んだ。
「でも森村さ〜ん! 柏餅は結局、
見つからなかったんですよね!」
「あっ! そうだった!」
「では、最後にもう一度!」
チャッピーは両手を広げた。
「柏餅をくれなきゃ、いたずらしちゃうぞ〜!」
「あはははは!」
星のない朝。
けれど、笑い声だけは、
どこまでも明るく響いていた。
森村探検隊、今朝も無事に帰還!
―― エンドロール ――
主演:森村さん(ゼロの旅人)
探検隊員:モリリン・ヒカリン・チャッピー
特別出演:風さん(魔法の案内人)
友情出演:キング・クイーン・
ジャック・Aの塔
特別協力:真紅のゼロ、クイーンの小径
小道具:ホットコーヒー、
シャインマスカット大福
捜索対象:星・柏餅・セブンイレブン
未解決事件:消えた柏餅
次なる任務:目玉焼きのお皿
争奪じゃんけん大会
合言葉:風の向くまま、気の向くまま、
心のまま、ひらめくままに。
おしまい。