朝そばで満たされた、
少し重たいお腹を抱えながら、
私はいつもよりゆっくりと歩を進めた。
次に向かったのは、大岡川沿い。

朝の川面を滑るように進む、
SUPを楽しむ人たちの清々しい光景を
見に行こうと思ったのだ。
時刻は、もう7:00近く。
太陽は燦々と光を放ち、
その光はすでに熱を帯びている。
歩くほどに、じわじわと汗が肌を伝っていく。
暑い。
今日一日、気温はこれから
ますます上がっていくのだろう。

伊勢佐木モールには入らず、
手前を右に曲がって、
まっすぐ歩いていくと大岡川に行き着く。
そこに、二階建ての細長い、どこか古い
アパートのような建物が見えてきた。



横浜へ来るようになった頃から、
ずっと気になっていた建物だ。
「なんだか面白そうな場所ね」
そう思いながら、いつも横目で眺めていた。

以前、お客さまに聞いたところによると、
スナックや小さな飲み屋さんが
並んでいる建物らしい。
常連さんでなければ、
なかなか扉を開けにくいお店も多いのだとか。
そう聞くと、ますます気になる。
少し勇気は必要だけれど、 
いつか一度、その扉の向こうを
覗いてみたいと思っている。

川沿いに出ると、
朝の太陽が水面に映り、
細かな光の粒となってキラキラと揺れていた。
とても美しくて、思わず足を止める。
けれど、そっと川を覗き込んでみると、
思っていた以上に水は濁っていて、
少し驚いた。

遠くから眺める美しさと、近くで見る現実。
その両方を抱えて流れているのも、
街の中を流れる川らしさなのかもしれない。

海から届く風とは、また少し違う。
川の匂い、街の匂い、
そこで暮らす人々の気配が入り混じった、
どこか生活感のある風。
華やかではないけれど、
その風が頬を撫でると、
不思議と心が落ち着いた。

朝そばをたっぷり抱えたお腹は、
まだ少し重たいまま。
だから急がず、
風景をひとつずつ拾い集めるように、
のんびりと歩いていく。

川を眺めながら、さらにまっすぐ進み、
旭橋のあたりまで来ると、
SUPクラブが見えてきた。
これから川へ出ようと、
大きなボードを運び出している人。
すでに水の上に浮かび、
パドルをゆっくりと漕いでいる人。
朝の大岡川には、
SUPを楽しむ人たちの姿がいくつもあった。

強い日差しが降り注ぎ、
歩いている私は汗ばむほど暑い。
けれど、水面を滑る人たちは、
川風に包まれて
とても気持ちよさそうに見える。

川の流れに沿いながら、ゆらり、ゆらり。
時にはパドルを止め、
ただ水に身を委ねている。
その姿を眺めているうちに、
私もSUPをしてみたいという気持ちが、
ふいに胸の中に湧き上がってきた。

水の上から眺める横浜の街は、
どのように映るのだろう。
いつも歩いている川沿いの景色も、
水面の上からなら、
きっとまったく違う表情を
見せてくれるに違いない。

スマートフォンで歩数を確認すると、
すでに14,000歩を超えていた。
さすがに、今日はもう
黄金町まで歩かなくてもいいだろう。
このSUPクラブの近くから
伊勢佐木モールへ入り、
ゆっくりと戻ることにした。

ゴールは、もうすぐ。
川面には朝の光が揺れ、 
そのきらめきの中を、
SUPに乗った人たちが静かに流れていく。
ゆらゆらと流れる川。
その流れに逆らうことなく、
軽やかに浮かぶ人たち。
そんな穏やかな光景を見つめていると、
今日は私も、
急ぐことを少しだけやめてみたくなった。

川の流れに身を任せるように、
心をゆるりとほどきながら、
今日一日、ゆらゆらと貴方を待ちたい。
お部屋へ戻れば、
ここからはオアシス時間の始まり。
たくさん歩いた体をゆっくりと休ませながら、
川面に浮かぶSUPのように、
私の心ものんびりと漂わせよう。
午後の扉が開く、その時まで――。