風とともに、再び歩き出した。
時刻は、そろそろ8:00を過ぎる頃。
今度こそ、パンが買える。
そう思うだけで嬉しくなって、
気持ちまで少し弾んでいた。
大岡川まで来た。橋を渡り、
さくら通りを歩いた方が、
どうやら日の出町までは近そうだ。
二階建ての飲食店が並ぶ建物の前を通り過ぎ、
川を眺めながら歩く。
でも、不思議。
いつもなら目に留まる桜川の景色が、
今日はあまり入ってこない。
頭の中が、パンでいっぱいなのだ。
人って、本当にわかりやすい。
心が向いているものによって、
同じ景色でも見え方が変わる。
やがて日の出町の橋が見えてきた。
大岡川が大きく広がる。
水面には、SUPを楽しんでいる人の
姿もあった。
そういえば、
私も少し前にSUPをしたばかりなのに、
もうずいぶん昔のことのように感じる。
私の風と、川の風が、仲良く戯れている。
きっと、
「今のこの人、
パンのことしか考えてないから、
何を言っても聞こえないわよ」
なんて話しているのかもしれない。
ちょっと。風さん、そんなことないわよ。
確かにパンには気を取られているけれど、
あなたたちのことだって、
ちゃんと感じている。
そう心の中で答えた途端、
真正面から、大きな風がやってきた。
ひゅう。
ひゅう。
体ごと包み込むような風。
いつも見守ってくれている風。
なんだか、おおらかな母のような愛を感じた。
そして――やった。パン屋さんは、
ちゃんと開いていた。
しかも、パンもたくさん並んでいる。
嬉しくなって、勢いよく店内へ。
まず向かったのは、
お目当てのサンドイッチのコーナー。
ところが、
欲しかったコッペパンのサンドや
マフィンサンドは見当たらない。
並んでいるのは、カツやフライ、ウインナー。
朝の私には、ちょっと重たい。
そこで、小さく切られたサンドイッチの
詰め合わせを選んだ。
コンビニで買うより、
きっとこっちの方がおいしい。
それから、もう一つ。
お腹が空きすぎていたから、
歩きながらつまめる、
小さな枝豆パンも買った。
500円玉くらいの大きさのものが、
いくつか入っている。
ちょっとお行儀は悪いけれど、
今日はいいことにしよう。
朝からずっと歩いてきたんだもの。
そして、いよいよ今日のゴールへ。
そんなに歩いたつもりはなかった。
途中で日記を書いたり、
空を眺めたり、
音楽に立ち止まったり。
歩くことよりも、
寄り道をしていた時間の方が
長かった気さえする。
だから、最後に距離を見たのは、
ほんの好奇心だった。
すると――あらあら。
まあまあ。
なんと、10km。
ちゃんと達成していた。
一体、どこをそんなに歩いていたのだろう。
自分でも、ちょっと笑ってしまった。
クールダウンのストレッチをしながら、
朝一番に見上げた空の方を魅る。
そこにはもう、燦々と輝く太陽。
今朝の主役だった雲は、
いつの間にか太陽に
その座を譲ったようだった。
今日も、いろいろなものを拾った。
美しい空。
懐かしい歌。
風のぬくもり。
川の景色。
思いがけない寄り道。
そして最後に、小さな喜びの、10km。
その全部を、
心のサンクチュアリーにそっとしまう。
さあ。今からお風呂に入って、汗を流そう。
そして――私のオアシス時間の始まりだ。
パンを追いかけ、風に包まれて✨
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