12時半からご予約をいただいていた。

なぜだか、いつの間にか私の頭の中では
「12時半に出勤」ということに
なっていたらしい。
そのつもりで準備をしていたのだけれど、
途中でふと気づいた。
そうだ。
私の出勤時間は12時だった。

時計を見ると、もう11:20。
あら、ちょっと急がなければ。
そんな少し慌ただしい気持ちのまま、
用事があってコンビニへ向かった。

外に出て空を見上げると、曇り空。
少し蒸し暑さはあるものの、
涼しげな風がとても気持ちいい。
ふわふわ。
ふわふわ。
風が私の頬を撫でる。

私の風さんは、
どうやら私が外へ出てくるのを
待っていてくれたらしい。
「もう少し待ってね。
今はちょっとコンビニに来ただけだから」
そう心の中で伝えると、
「わかったよ」と言ってくれているように、
今度はふわふわと私の頭を撫でてくれた。

私はテレワークにして、
もう少し横浜に滞在する。
けれど、会社のお盆休みは今日で終わり。
そう思うと、なんだか少し寂しい。
そして今日は送り日。
帰ってきてくださっていたご先祖様を
お見送りする日でもある。

亡き母を自宅で迎え、
そしてお送りすることはできなかったけれど、
母が横浜の空を通って帰っていくのなら、
その空を見上げながら母をしのびたい。
そんなことを考えていたら、
今朝のウォーキングで心に残った
二つのものが、ふとつながった。

五山送り火。
そして「夏は来ぬ」。

送り火は、母と一緒に魅た思い出がある。
「夏は来ぬ」は、なぜだか母が好きだった
歌のような気がしてならない。

だから今朝、
送り火のことが
あれほど心に浮かんだのだろうか。
だから「夏は来ぬ」をもう一度聴きたいと
思い、あの地下へ向かったのだろうか。
きっと、そうなのだ。

そう思うと、亡くなってからも、
母とはどこかでずっと気持ちが
通じ合っているような気がしてきた。

私は曇り空を見上げながら、
心の中で母に話しかけた。
「お母さんも私と同じで、
ちょっと
おっちょこちょいなところがあるから、
帰るときはちゃんと、
用意しておいたお土産を忘れずに
持って帰ってね」
そうつぶやいた、そのときだった。

ぽつり。
また、ぽつり。
かすかな雨が頬に触れた。
それは、別れを惜しむ母の涙
だったのかもしれない。
そして同時に、私の心の涙
だったのかもしれない。

しばらく空を見上げたまま
立っている私を見て、
風さんは何も言わず、
そっと私を包んでくれた。

まるで、「お母さんの声は、私が受け取って、
またあなたに届けてあげる」
そう言ってくれているようだった。
そうだ。風さんは、どこへでも飛んでいける。
遠い街へも。海の向こうへも。
そして、天空へも。

きっと母のところへも行ける。
だから私は少しだけ安心した。
母からの言葉があれば、
いつかまた風さんが運んできてくれる。
そんな気がした。

さあ、そろそろ行かなければ。
今日は12:00から0:00まで出勤しています。
お誘いをお待ちしています。

そして12:30からご予約くださったあなた、
ありがとうございます。
初めてお逢いするあなた。
どんな方なのだろう。
今から少しドキドキしています。

風さん、そろそろ行こうか。
母の声を胸に抱きながら。
今日もまた、新しいドアへ。
後ほどお逢いできるのを楽しみにしています。