朝の二作目の日記。
私の哲学の世界にはまり込んでいたら、
どうやら文章が
長くなりすぎてしまったらしい。
とうとう、システムから「長すぎる」と
怒られてしまった。

お客様からも
「日記、長いね」とよく言われる。

でも私にとって、長い文章を書くことは、
それほど難しくない。
難しいのは、その長い文章を短くすること。
短くまとめる方が、ずっと時間がかかる。
だからいつも、
その時間がなくて長いまま
アップしてしまうのだけれど、
今日はとうとうシステムに
エラーを出されてしまった。

仕方なく読み返し、
自分の書いた文章を削っていく。
一段落削除。
アップしてみる。
——エラー。
もう一段落削除。
もう一度アップ。
——今度はOK。
なるほど。

なんとなく、システムが許してくれる
文章量が感覚でわかったような気がした。

こんな経験も初めてだ。
これからは少しだけ、
このことも頭の片隅に置いて書こう。

とはいえ心の中では、
「テキストなんて画像ほど
容量があるわけじゃないんだから、
あと二段落くらいいいじゃない」なんて、
少々不満もある。
でも、どこかで線を引かなければ、
私のように際限なく書く人がいるから
困るのだろう。
そう思うと、ちょっと笑えてきた。

そんな日記との格闘をしているうちに、
大さん橋の私の聖地にある
ベンチに座ったまま、
思った以上に時間を使ってしまった。
50分くらい経ったのだろうか。
振り返ってみると、これがまた面白い。

自然に包まれて。
自然に抱かれて。
風にすべてを洗い流してもらって。
「無」になり、
新しいものを受け入れる準備ができた——。
そんな私のところへ
真っ先に吹き込んできた新しい風が、
日記のシステムとの戦い。

なんという現実。
あれだけ壮大な心の旅をしていたのに、
あっという間に現実世界へ
連れ戻されてしまった。
そのギャップがおかしくて、一人で笑った。

お盆休みも終わり、
今日からいつもの平日が戻ってきた。
時刻は6:50。
そうだ。馬車道駅の地下のパン屋さん。
今から向かえば7:20くらいには着くだろう。

今日は開いている。
しかもオープンから20分ほど経っているから、きっとパンも出そろっている。
お腹も空いてきた。
朝のパンと、
帰り道につまむミニパンも買おう。
レジ袋はちゃんと
ウエストポーチに忍ばせてある。
準備万端。

そして、もう一つ。
もしかしたら今日も、
あの素敵なピアノの演奏が
聴けるかもしれない。
そんな小さな期待を胸に、
風さんを連れて、
「千鳥」を聴きながら足早に向かった。
軽やかに。
軽快に。
前を向いて。

今日はいつもとは違う階段から、
パン屋さんへ行ってみようと思った。
少しだけルートを変える。

すると、歩道の脇に
小さなピンク色の花が咲いていた。
時間がない。通り過ぎよう。
そう思ったのに、やっぱり気になる。
立ち止まり、写真を撮った。
小さな花が寄り添うように
集まって咲いている。
なんとも愛らしく、可憐だった。

調べてみると、ランタナだった。
時間とともに花の色が変化することから
「七変化」という別名もあるらしい。
かわいいのに、面白い花。
いつもの道を少し変えただけで、
こんな出逢いがある。
それもまた面白かった。

ところが、肝心の駅への出口がわからない。
とりあえず馬車道の方へ進めば、
どこかに入口があるだろう。

そう思って歩いていると、
大勢の通勤の人たちが建物の中へ
吸い込まれるように入っていく。
長いお盆休みが終わったばかり。
ちょっとお疲れなのだろうか。
それとも、まだ朝で眠いだけなのだろうか。

きっとこの人たちが出てきた方へ行けば
駅がある。
そう考えて、
人の流れとは反対方向へ歩いた。
「風さん、どこかに入口ない?」聞いてみた。
ところが風さんは、
そしらぬ顔でどこかへ行ってしまった。
冷たいなあ。

途中、以前のウォーキングで
見つけたお店を発見した。
そこで、ふと思う。
もしかして、この通勤の人たち、
馬車道駅ではなく
関内駅から来ているのでは?
それなら大変。
関内駅へ行ってしまったら、
パン屋さんを通り過ぎてしまう。

ここで軌道修正。
しばらくして駅への入口を見つけた。
「あった!」と思ったら——。
なあんだ。
いつも使っている階段だった。
せっかく違う入口を見つけようと思ったのに。

そして不思議なことに、
私が階段を見つけた途端、
風さんが舞い戻ってきた。
もしかして、間違った道を教えて、
あとで自分のせいにされるのが
嫌だったのかしら。
ちょっとずるい風さんね。

七番出口から地下へ降りる。
地下のフロアへ近づくにつれて、
胸が少しドキドキしてきた。
今日も、あの懐かしい曲が聴けるだろうか。
母の余韻から始まった朝だったからこそ、
今日はぜひ聴きたかった。
期待しながらピアノの方へ向かう。
でも——。
おじさんはいなかった。

考えてみれば当然かもしれない。
今はちょうど通勤ラッシュ。
こんな時間には来ないのだろう。
昨日話したときには「毎日来ている」と
言っていたから、
平日はもう少し遅い時間なのかもしれない。

誰もいない。
誰も弾いていない。
ただ静かに、そこにあるピアノ。
少し寂しかった。
がっかりしながらパン屋さんへ向かった。

でも、やっぱり諦めきれない。
パンを買った帰り、
もう一度だけピアノの方へ
行ってみることにした。
階段を上がっていく。
すると——。
ピアノの音が聞こえた。

柔らかな音だった。
軽快すぎるわけでもない。
かといって、悲しいわけでもない。
長い休みが終わり、
少し重たい気持ちを引きずりながら
仕事へ向かう朝。
そんな人の心を、
そっと軽くしてくれるような音だった。

おじさんかな。
そう思ってピアノを見ると、
弾いていたのは女性だった。
何の曲だろう。
どこかで聴いたことがある。
歌謡曲のような、懐かしいような。

しばらく聴いていると、
あるメロディが耳に引っかかった。
——もう一回。——もう一回。
あ。もしかして。
調べてみた。
Mr.Childrenの「HANABI」だった。
花火。夏の夜空に、一瞬だけ強く輝く光。
そして「もう一回」と、
何度でも前を向こうとする曲。

今朝の私は、
過去から現在へ、
現在から未来へと、
一歩ずつ歩くことを考えていた。
だからなのだろうか。
この朝、
この場所で、
この曲に出逢ったことが、
なんだか偶然ではないように感じられた。

昨日のおじさんではなかった。
聴きたかった曲でもなかった。
でも、思い描いていた未来とは
違うものがやってきたからこそ、
今日の私に必要な音楽と
出逢えたのかもしれない。
未来とは、案外そんなものなのだろう。

予定どおりではない。
思い描いたとおりでもない。
道を少し変えれば、
知らなかった花に出逢う。
道に迷えば、風さんがいなくなる。
逢いたかった人がいなくても、
別の誰かがピアノを奏でている。
そして、
そこから思いがけない一曲を受け取る。

素敵な曲を、朝からありがとう。
そんな気持ちでピアノに別れを告げ、
五番出口から地上へ出た。
そして、いつもの私の専用ベンチへ。
買ったばかりのミニパンを一つつまむ。
美味しい。
風がまたやってくる。
私はその風を感じながら、
さっき聴いた「HANABI」の余韻を、
日記へと書き始めた。

今朝、光の道を歩きながら思った。
未来が今になり、
今が過去になっていく。

そして今、もう一つ思う。
その未来は、必ずしも私が想像した姿で
やってくるわけではない。
だから面白い。
だから私は、また歩いてみたくなる。
もう一回。
そして、もう一回。
風の先に何が待っているのかを
楽しみにしながら。