12:00からご予約をいただいていたから、
今日は少し早めに
お店へ出勤しようと思っていた。
……はずだった。
でも、やっぱり最後はバタバタ。

外へ出ると、少しもわっとした
空気が漂ってきた。
酷暑というほどではない。
かといって、涼しいわけでもない。
そんな空気の中に混じって、
私の風さんもやってきた。

「ちょっと遅かったんじゃないの?」
そんなふうに言われたような気がした。
「だって、急にやることが増えたんだもの」
心の中で、ちょっぴり言い訳をする。

待機所へ着き、
いつもの場所に今日の居場所をセットした。
今日も時間があれば、睡眠貯金をしたい。
そんな期待も込めながら、
いつでも気持ちよく横になれるように、
今日の居場所を綺麗に、綺麗に整えた。

そして、大通り公園を突き抜けていく。
セミの声が耳いっぱいに響く。

今日は酷暑でもなく、
涼しくもなく、少し蒸し暑い。
ああ、これが日本の夏なのだろうな。
そんなことを思いながら歩く。
ハトぽっぽも、
なんだか気持ちよさそうに歩いている。
「じゃあ、風さん。行ってくるわね」

そして——。
今日、最初のドアが開きました。
お逢いできることを
楽しみにしていたあなたが、
迎えてくださいました。

まさか今日、来ていただけるなんて
思っていなかったから、本当に嬉しい。
こんなサプライズプレゼントだったら、
いつでも大歓迎よ。
なんちゃってね。

お部屋へ入ると、
すぐにぎゅっと抱きしめていただいた。
あなたのぬくもり。
胸から伝わってくる鼓動。
その腕の中で、
今日こうしてお逢いできた喜びを、
あらためて実感していた。

毎週のようにお逢いしていたからだろうか。
少し日にちが空くだけで、
なんだかちょっぴり寂しくなる。
だから今日は、本当に嬉しかった。

逢えなかった間のお話をさらりとして、
そのあとは、ずっと二人で肌を寄せ合い、
くっついていたような気がする。

あなたに優しく触れられながら、
いっぱいあなたを感じる私がいた。
そして私も、あなたに優しく触れる。
あなたが感じてくださっていることが
伝わってくる。
それが、とても嬉しかった。

あなたの腕に包まれながら、
そばにいてくださることが嬉しくて、
このままずっと、こうしていたいな。
そんなことを思った。

腕枕の中で、いろんな話をした。
いっぱい話して、
いっぱい笑って、
いっぱい語らった。
ふと隣を見る。
そこには、あなたの横顔がある。

手を伸ばせば触れられるほど近くに、
大切な人の横顔がある。
ただそれだけのことなのに、
心は満たされていた。
また、逢いに来てくださいね。
私はいつも、待っています。

そして、今日最初のドアが閉まりました。

あなたとお別れしたあと、
次のご予約をいただいていたので、
少しだけ外で日記を書こうと思った。

ところが——。
私のいつもの場所は、
もう誰かに取られていた。
あらら。
仕方がない。
少し先まで歩き、初めての場所に腰を下ろした。でも、座ってみれば、
ここがなかなかいい。
ちょうど日陰になっていて、涼しい。

目の前には街路樹が一本。
何の木だろう。
葉っぱを見ると、
毎朝見ているアキニレに似ている気がする。
でも、調べてみると——。
ケヤキ。
本当に?

なんだか気になって、
葉っぱだけでは飽き足らず、
今度は幹まで撮って、
何度も何度も調べてみた。
やっぱり、ケヤキだった。

また一つ覚えた。そして、また一つ。
私のマイガーデンに、
新しいコレクションが増えたような気がした。

いつもの場所を誰かに取られなければ、
私はここには座らなかった。
ここに座らなければ、
このケヤキをこんなふうに
魅つめることもなかったかもしれない。

今朝から、こんなことばかりだ。
予定していたものがなくても。
思い描いていた道から少し外れても。
その先には、知らなかった何かが待っている。

ケヤキの葉が、ふわりと揺れた。
あ。風さん。
迎えに来てくれたのね。
さっき「行ってくるわね」と別れた風が、
今度はここで私を
待っていてくれたようだった。

「でも風さん、私、まだ次があるの。
もう少し待っていてね」
次のドアが開くまでの、ほんの短い時間。
それまでは、ここにいよう。
新しく見つけたケヤキと、
いつもの風さんと、もう少しだけ一緒に。