一滴の雨が
水面に落ちた

ぽつん、と

ほんの小さな雫なのに
そこから生まれた輪は
ゆっくり
ゆっくり
私の知らないところまで
広がっていく

ああ
心もきっと
こんなふうに
動いている

朝の暗がりに灯った
小さなぼんぼりも

雨に打たれながら
すっと立っていた木も

「おかえり」と
顔を上げた海の波も

頬をなで
ときには私を飛ばしそうになった
風さんも

一つひとつ
心に雫を落としていった

そのたびに
波紋が生まれる

重なって
広がって
やがて見えなくなる

でも
消えたのではない

染み込んだのだ

水が水へ還るように
私の中へ溶けて
私になったのだ

昔から
水面を見るのが好きだった

そこに映る空や木や人を見ながら
私はいつも
映っている姿より
その奥を魅ようとしていた

湖は
どれほどの人の息遣いを
その水面に映してきたのだろう

そして今
私の前に広がる海は
どれほどの喜びを
どれほどの涙を
黙って受け止めてきたのだろう

私は海を魅ている

けれど
もしかしたら海も
ずっと私を魅ている

五日ぶりね
おかえり

そんな声が
波の向こうから聞こえた気がした

私は
水のように生きたい

形を決めすぎず
流れに逆らいすぎず

晴れた日には光を映し
雨の日には雨を受け

風が吹けば揺れながら
それでも
私の流れを失わずに

心に落ちた一滴を
波紋にして

広げて
染み込ませて

そしてまた
何もなかったような
水面に戻り
次の一滴を待つ

そうか

余白とは
空っぽになることではなかったんだ

受け取ったものが
私の中へ染み込み
私になったあとに生まれる
新しい水面だったんだ

今日もそこへ
一滴が落ちる

ぽつん

そして
また一つ
私だけの波紋が広がっていく

それがきっと、
今日を生きている
私の心模様。