アラームより13分早く目が覚めた。

このまま起きようか。
それとも、もう一度眠ろうか。
少し迷って、もたもたしていたけれど、
どこかで心がすとんと落ち着いた。
さあ、歩こう。

外へ出てみれば、もう雨が降っていた。
「あら、傘いるわ」
昨日濡れた靴をせっかく乾かしたのに、
今日もまた濡れちゃうな。
そんなことを思いながら傘を取りに戻り、
改めて外へ出た、その瞬間。

うわーっ。
台風がもうやってきたのかと思うほどの
風が吹きつけた。
眠気なんて一瞬でどこかへ飛んでいった。
ちらりと見ると、
モチオジさんが大きく大きく揺れている。
枝を揺らし、葉を揺らし、
朝からずいぶん興奮している。

「おじさん、朝から怒ってるみたいね」
その隣では、
なぞちゃんが何食わぬ顔で澄まして立っている。大騒ぎするおじさんと、
それを涼しい顔で眺めるなぞちゃん。
なんだか朝からおかしくなった。

そして風さんがやってきた。
「おはよう。今日は少し早いね」
「目が覚めちゃったの」
そんなおしゃべりをしている頭上では、
今度はカラスたちの大合唱。
カー、カー、カー。
カクカクカクカクカ。
1羽じゃない。2羽、3羽、4羽。
「あら、ハモってる。なかなかいい声だわ」

雨に濡れた伊勢佐木モールの路面には、
店舗の灯りがキラキラと映り込んでいた。
いつもの道なのに、
今朝はまるで花道。
私はその真ん中を、
胸を張ってゆっくり歩いた。
これからステージへ登場するスターみたいに。

出口が近づくと、
思わず両手を広げて、
聞こえもしない歓声に応えたくなった。
なんて楽しい朝のドラマ。

風景って不思議だ。
いつもの街なのに、
その日の光や雨や風ひとつで、
そこにいる自分まで違う人にしてくれる。

大騒ぎするモチオジさんに、ひとしずく。
雨に濡れて輝く花道に、ひとしずく。
カラスたちのハーモニーに、ひとしずく。
そしてスターになって歓声を浴びた私に、
ひとしずく。

ポツリ、ポツリ。
雨粒が水たまりへ落ちて、
いくつもの波紋を描いていく。

昨日初めて、
自分の心模様のようだと思った波紋。
それがもう今朝から、
目の前で次々と生まれている。
そして気がつけば、
その一つ一つが私の心にも落ちていた。

まだ歩き始めたばかりなのに。
今朝の私の心にはもう、
いくつもの波紋が静かに広がり、
ゆっくり、ゆっくり染み込んでいた。