ただいま、私のオアシス時間。

冷え切った体をお風呂で温めたら、
今度は暑くなって
エアコンのスイッチを入れた。
帰ってくるまでは
暖房が欲しいくらいだったのに。
適度に涼しくなった部屋に身を置くと、
なんとも心地いい。

それにしても昨日から、
不思議なことが起きている。
遠い遠い過去の記憶。
少し前の記憶。
そして、ついさっきまでそばにあった記憶。
心の奥から、心の中から、心の入り口から、
キュン、キュン、キュンと
次々に湧き上がってくる。

そして、ひとつの記憶が別の記憶と結びつく。
そこへ今の私の心が結びつき、
さらに別の記憶がつながっていく。
心の中に散らばっていた無数の点が、
今という光を与えられ、
一本の線になっていくようだった。

ふと、松本清張の『点と線』を思い出した。
偶然に見えた小さな一致から、
隠れていたものがつながっていく。
私の中で起きていることも、
少し似ているのかもしれない。

記憶と記憶が巡り逢う、偶然の奇跡。
だったら、
その線をもっと太く、
もっと長く、
そして色鮮やかに輝かせながら
育てていきたい。
それこそが、
私のいう「心の芯芽」なのかもしれない。

そんなふうに心が美しく整った日は、
不思議と目に映るものまで
美しくあってほしくなる。
そこで目に入ったのが――

お風呂場の黒ずみだった。
「……気になる」
せっかくのオアシス時間だったけれど、
我慢できずにカビキラー。
しばらく置いて、お湯で流す。
少しきれいになったお風呂場を眺めながら、
「もうちょっとカビキラーがあったらな」
今度、お店の人に頼んでおこう。

心の点と線を考えていたはずなのに、
いつの間にかカビ取りをしている。
そんな現実も、なんだか私らしい。

そしてまた、ひとつの点が気になった。
中華街の四神。
調べてみると、今朝立った北の玄武門、
南の朱雀門。
そして東の朝陽門は青龍、
西の延平門は白虎だった。 

朝陽門――。
そこは、以前ジグザグ中華街をしていた頃、
私が毎朝のように
何気なくくぐっていた門だった。
日の出を迎える東の門。
青龍。
何も知らなかった私は、
ずっと青龍の門をくぐって
朝の中華街へ入っていたのだ。

そして、ふと見上げた雲から
四神を思い出したことで、
あの頃の風景と
今日の私が一本の線でつながった。
知らなかった頃の私と、知った今の私。
同じ門なのに、
次にくぐるときには、
きっと違う風景に魅える。

いつ行こう。
明日でもいい。
明後日でもいい。
できれば時間のある朝がいい。
急いで四つの門を確認するだけではなく、
一つ一つの門の前に立ち、
心がどこへ飛んでいくのかを楽しみたい。

青龍、朱雀、白虎、玄武。
四神を巡りながら、
昔の私が歩いた中華街を、
今の私でもう一度歩いてみよう。
きっとそこには、
まだ私の知らない「点」が待っている。
そしてその点もいつか、
別の記憶と巡り逢い、
一本の線になるのだろう。

そう思うと、
もう心は少しだけ中華街を歩き始めていた。