ほんのりと雨が降っている。
そして風が強い。
雨粒が肌に触れると冷たい。
ウィンドブレーカーを羽織ると、
ようやく暖かさに包まれた。

やっぱり次に横浜へ来る頃には、
もう長袖だな。羽織物も持ってこなくちゃ。
家族にそんな話をすると、
「送ってあげるよ」
と言ってくれた。
「あと6日間だけだから、頑張るわ」
そう答えたけれど、
そこまで気にかけてくれる
気持ちが嬉しかった。

街を見渡しても、
今日はどこか冷たい。
寒くて、暗い。
今から逢うあなたは、どんな人なのだろう。
優しく、温かく
包んでくれる人だったらいいな。
そんなことを思いながらホテルへ着いた。
風さん、行ってくるわね。

そして、本日最初のドアが開きました。
迎えてくださったのは、
私が待ち焦がれていたかのような、
とても穏やかな笑顔のあなた。
言葉遣いも表情も優しく、温かかったら。

「森村です。はじめまして。
よろしくお願いします」
そう言うと、にっこり微笑んでくださった。
「よろしくね。
ずっと日記を見て気になってたんだよ。
だから逢いたかったんだ」嬉しかった。

日記を読みながら、
私のことをいろいろ想像して
くださっていたらしい。
でも食べ物も飲み物も、
甘いものが好きなのかどうかさえ、
はっきりとは
書いていないから分からなかった、と。

だから、いろんなものを
取り揃えて待っていてくださった。
何を用意してくださったかよりも、
その前に私の日記を読み、
考え、
迷いながら選んでくださった
時間が嬉しかった。

「でも、読めば読むほど
不思議な人だと思った」
あ、不思議ちゃん。
私はその言葉が好き。
だって、
まだまだ奥に何かがありそうでしょう。
そしてあなたが、
もっと私を知ろうとして
くださるような気がするから。

ソファに座って、いろんな話をした。
会話のリズムも不思議なくらい心地いい。
冷たい雨の中を震えながら歩いてきた私は、
ようやく探していた
オアシスへたどり着いたような
気持ちになっていた。

触れる手も、言葉も優しかった。
私の言葉を穏やかに受け止めてくださる、
その姿から伝わってくる真心が嬉しかった。
いっぱい温めていただいた。
いっぱい抱きしめていただいた。

そして今度は私からあなたへ。
あなたの表情がほどけていくのを
魅ているのが嬉しかった。
「気持ちいい」という言葉が
耳をくすぐるたび、
その喜びが私にも伝わってきた。

優しさと温かさに包まれた、
私が求めていたオアシスのような時間だった。

ふと、ソファの上の壁にある飾り棚を見る。
そこには、ピンクの小花がいっぱい咲いた
小さな鉢がいくつも並んでいた。
その花を魅ながら思った。
今日の時間みたい。
冷たい雨の向こう側で見つけた、
甘く、優しく、温かな小さなオアシス。
ありがとう、あなた。
また待っていますね。

お別れ際、もう一度抱きしめ合った。
あなたの温もりと鼓動を感じてから、
ホテルを後にした。

「風さん、待ってくれてたの?
寒くなかった?」
「寒かったよ。
でも、あなたはだいぶ心も体も
温めてもらったみたいだね」
「そうなの、わかる?」

冷たい風の中なのに、
さっきまでとはもう違う。
胸の奥には、まだあの温もりが残っている。
「また逢えたらいいなって思ってるのよ」
そう風さんに打ち明けながら、
私はもう一度、雨の街へ歩き出した。