長い一日が終わろうとしている。
今日という日を振り返ろうとすると、
ひとつひとつの出来事より先に、
いくつもの光景が水面に浮かぶように
現れてくる。
まだ夜の色を残した空。
不思議な光を宿した雲。
雨に濡れた緑。
水の流れ。
横浜の街。
そして、人の温もり。
それぞれは別々の時間に出逢ったものなのに、
今こうして
一日の終わりに心へ浮かべてみると、
どこかで全部が
つながっているような気がする。
今日の私は、
いつもより少しだけ心
に余白を持って歩いていた。
だからなのだろうか。
目の前に現れた風景が、
ただ通り過ぎていかなかった。
ひとつの景色が心に触れると、
そこから別の記憶が目を覚ます。
その記憶にまた何かが触れて、
さらに遠い風景が蘇る。
朝に魅たものが夜になって帰ってきたり、
ずっと忘れていた景色が、
誰かとの何気ない会話から
突然鮮やかになったり。
時間は前へ進んでいるはずなのに、
今日は過去と現在の境目が
とても柔らかかった。
まるで水面に落ちた雨粒のよう。
ぽつん。
ひとつの記憶が落ちる。
そこから生まれた波紋が広がり、
別の波紋と重なって、
またその向こうへ広がっていく。
そうして私は今日、
何度も自分の中に眠っていたものと再会した。
でも、不思議なことに
懐かしいだけではなかった。
過去へ戻っているのではなく、
昔の私が持っていたものを、
今の私がもう一度受け取っているようだった。
そして人と逢うたび、
そこへ新しいものが加わっていった。
笑顔からいただいたもの。
言葉からいただいたもの。
抱きしめられた温もりからいただいたもの。
それらは形を持たないのに、
今の私の中には確かに残っている。
冷たい雨の中を何度も行き来した
一日だったのに、
心の中だけは少しずつ温かくなっていった。
そして最後に私の中へ残ったものは、
温もりよりもう少し力強かった。
熱量。
それは誰かから一方的に
もらった力というより、
その人に触れたことで、
私自身の中にもともとあった力を
思い出したような感覚だったのかもしれない。
そう思った瞬間、
今日一日の風景がまた少し違って魅えてきた。
朝から心に生まれていた小さなもの。
いろんな感動や記憶を養分にして、
それは今日一日の間にも少しずつ育っていた。
もう、生まれたばかりの
「心の新芽」ではないのかもしれない。
心の芽。
雨に打たれながらも、
水を吸い、
光を受け、
人の温もりを知り、
そして最後には熱まで受け取った。
今日という日は、
その芽を育てる一日だったのかもしれない。
そろそろ、私の今日一日の物語も
最終章に入ろうとしている。
窓の向こうでは、まだ雨が降っている。
けれど私の心は、
不思議なくらいもう明日のほうを向いている。
晴れるかな。
歩けるかな。
明日の朝、外へ出たとき、
今日の雨に洗われた街は
どんな色をしているのだろう。
そして風さんは、
どんな顔をして迎えに来てくれるのだろう。
考えているだけで、少しワクワクする。
きっと今日心に広がった波紋は、
今夜で消えてしまうものではない。
温もりも。
懐かしい記憶も。
胸の奥に残った熱量も。
すべてが静かに私の中へ沈み、
明日の私をつくっていく。
雨粒から生まれた波紋が、
次の波紋へ触れるように。
今日から明日へ。
そして、その先へ。
最後のページはどのような言葉で
締めくくろうか。
そうね。
今夜は何かを終わらせる言葉より、
明日の続きを楽しみにする言葉がいい。
今日もらった温もりと熱量を胸に、
心の芽を連れて、また明日。
風さん、一緒に歩こうね。
波紋の先に、明日がある✨
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